忘れられかけた右腕が、静かにドジャースの構想から外された。佐々木朗希は5月9日のダイヤモンドバックス戦を最後に、右肩インピンジメント症候群で負傷者リスト(IL)入り。早期復帰を目指し、5月下旬にキャッチボールを再開したが、6月13日から15日の本拠地ジャイアンツ3連戦をベンチで過ごすのみだった。デーブ・ロバーツ監督は、
「現実的には今季は彼抜きで回すべきだ。本人が投げられると感じるまでは、無理をさせない」
と明言した。
状況をさらに厳しくするのは、663日ぶりとなった大谷翔平の投手復帰だ。日本時間6月17日午前の登板では1回28球を投げて犠牲フライで1失点したものの、最速161キロをマークする力投を見せた。次回の登板ではしっかりと修整してくるだろう。
グラスノーやスネルといった、離脱中の主力先発投手は球宴前後で復帰すると見込まれており、ドジャースのローテーションはさらに厚みを増す見通しとなっている。復帰の見込みはともかく、佐々木が割り込む余地は当面、なさそうである。
佐々木の離脱は、過去の日本人投手のケースを思い起こさせる。いわゆる「井川慶化」への懸念だ。
井川は阪神在籍時の2002年から2006年まで5年連続2桁勝利をマークした後、2006年オフにヤンキースへ移籍。ポスティング料2600万194ドル(当時、約30億円)、5年総額2000万ドル(年400万ドル+出来高)の大型契約を結んだ。
ところが初年度は2勝3敗、防御率6.25で、2年目も苦しんだ。結局、5年間の大半をマイナーで過ごし、メジャーでは13先発で2勝4敗、防御率6.66の大失敗に終わっている。2007年にはパドレスがトレードでの獲得に積極的な姿勢を示したものの、井川が拒否。メジャーで花開く機会を逃した。
現在23歳の佐々木は、ポスティング料650万ドルをドジャースが支払い、年俸76万ドルでメジャー契約を結んで今季1年目を迎えている。MLB協約では、オフにメジャー契約を結んだ選手は、当シーズン中のトレード対象外と定められている。仮にドジャースが見切りをつけ、他球団への移籍話が持ち上がるとすれば、来オフ以降だ。
最速160キロ超の速球と多彩な変化球を武器にした素材は、どの球団にとっても魅力的に映ることだろう。ドジャースの先発陣が厚い今季は動きが難しくとも、気の早い話ながら、オフのトレード交渉では「お宝候補」として名前が挙がる可能性があるかもしれない。
ロッテ時代から1年間まともにローテーションを守ったことがなく、離脱を繰り返してきたのは、もはやお馴染みの光景。だが苦境に立たされても、「素材」の評価は揺るがない。井川の轍を踏むか、あるいはドジャースで再びローテ入りを果たすのか、はたまた新天地に活路を見出すのか。
(ケン高田)