5月7日、満員の東京ドーム。ナイター照明に照らされたグラウンドを張り詰めた空気が包み込む中、巨人・高梨雄平がセットポジションから踏み込む。投じられた144キロのストレートは、阪神・中野拓夢の背番号「51」へ、一直線に襲い掛かった。
背中に死球を受けた中野はグラウンドに倒れ込むと苦悶の表情を浮かべ、しばらく立ち上がることができなかった。三塁側ベンチを飛び出した藤川球児監督はすぐさま球審に抗議。阪神ファンからは怒号が飛び交い、球場は騒然となった。
これを見て、前日に起きた中野との接触による巨人・岡本和真の左ヒジ靭帯損傷への「報復」だと、誰もが思ったことだろう。この日の中野は、初回から3打席連続で安打を放つ好調ぶり。高梨の死球は変化球がすっぽ抜けたものではないのだから…。
もっとも、今季の高梨は制球が安定せず、要所で抜け球や四死球が見られるのも確か。9回を投げた場合の死球率は2.70で、リーグ平均0.30を大きく上回っている。今回の死球劇は、高梨の制球難が生んだ不運な事故として受け止めるのが妥当なのだろう。
だが阪神ファンが怒りを爆発させる理由は、ほかにもあった。それが2023年7月2日に高梨がXに投稿した「ないぴ」ツイートだ。この日、7回表一死一・三塁の場面で登板した高梨は、近本光司に死球を与えていた。146キロのシュート直撃を受けた近本は肋骨を骨折し、戦線離脱。高梨が「みんなないぴすぎ」と称えたのは、自身のあとを継いだ投手に向けたものだが、阪神ファンの怒りの炎に油を注ぐ形となった。その高梨がまた…と。
今回の死球劇では、阿部慎之助監督が藤川監督に「ごめん」と手を上げて謝罪する場面があり、表面上は「手打ち」となっているが、またもや遺恨が残る一戦となってしまった。
(ケン高田)