葬儀の方法が多様化しつつある近年、「海洋散骨」や「樹木葬」などが、そう珍しい時代ではなくなってきた。アメリカで登場し、日本でも関心が高まりつつある「宇宙葬」もそのひとつ。その名の如く「宇宙空間で故人を弔う」というものだ。
具体的には1回に10人から100人単位で希望者を募り、遺灰の一部を人工衛星に乗せて打ち上げるというもので、費用はおおよそ20万円から40万円程度。遺灰は各自、個別にカプセルへ入れるため、他の遺灰と混ざる心配はない。打ち上げられた人工衛星は地球の周回軌道に乗り、数カ月から数年後に地球に再突入する。その際、人工衛星は全て燃え尽きるため、浮遊が問題視される宇宙ゴミになる心配はない。それゆえ、需要が拡大しているというのだ。
実はそんな「宇宙葬」には人間だけでなく、亡くなったペットの遺灰を乗せて旅立たせるケースがある。2019年4月にメディアで取り上げられた猫「ピカチュー」は、そんな1匹だった。
ピカチューは米オレゴン州に住むスティーヴ・ムント氏が飼っていた猫だが、2019年1月に糖尿病の合併症により死亡。そんな時、テキサス州ヒューストンにあるセレスティス社が「地球軌道」と題した宇宙葬プランを提供していると知り、クラウドファンディングサイトと自己資金を合わせ、葬祭費用の4995ドル(当時のレートで約55万8000円)を捻出した。その数カ月後、無事に「虹の橋を渡って星になった」というのである。
セレスティス社は2014年から「宇宙葬」ビジネスを展開。猫のほか、犬なども宇宙に送り出しているが、実は日本のベンチャー企業「SPACE NTK」も、粉末状の遺骨を納めたボックスをロケットで打ち上げる「宇宙散骨」を手がけている。2023年にはボックスに人間16人と猫1匹の遺骨を収めて宇宙へ、と報じられたことがある。
ちなみに、先に触れたピカチュウの飼い主ムント氏は、
「彼の心の一部は地球の軌道まで旅し、地球を見守ってくれるでしょう。ピカチュウが宇宙探検家として語り継がれていってほしい」
とコメントしているが、その通り、ピカチュウは流れ星となって宇宙を冒険しているのかもしれない。
(灯倫太郎)