世の中には様々な怪奇現象が存在するが、400年間にわたって謎とされてきた「ミルキー・シー(乳白色の海)」は、なんとも神秘的な怪現象といえる。
これは主にアラビア海や東南アジア海域周辺で発生する、海水が乳白色に光る現象を指す。1600年代から報告事例が相次ぎ、1870年には作家ジュール・ヴェルヌが書いた冒険小説「海底二万里」にも「ミルクの海」として描かれている。
数百年前から船乗りにたびたび目撃され、時には10万平方キロメートルにわたり、この怪現象が広がったことがある。ただし、船上から撮影された写真は、2019年の1枚だけ。発生のメカニズムは謎に包まれている。
ミルキー・シーと名付けたのは、1976年にアラビア海を航海していたイギリスの冷蔵貨物船「MVウェストモーランド」の船長と乗組員ら。彼らは当初、この現象を海中のバクテリアによる生物発光だと考えていた。とはいえ、発生場所があまりにも海岸から離れた海洋だったため、一般的な生物発光現象ではないだろうと捉えていたようである。
プランクトンは海中で光を放つ場合、通常は点滅するもの。ところがミルキー・シー現象は点滅することなく、放つ光が一定であることから「トワイライトゾーン」と称され、「聖書の黙示録ではないのか」との記述も残っている。
そんなミルキー・シーの研究に乗り出したのが、大気科学者のスティーブン・ミラー氏と米コロラド州立大学大気科学部の博士課程学生らによる研究チームだ。数世紀分の航海日誌や目撃証言、当時の新聞記事などを集積し、現代の衛星低光量画像化技術で検証。中には1985年にミルキー・シーに遭遇した船から採取された、海水サンプルも含まれている。
このサンプルから、藻類の表面に生息する発光性細菌が原因である可能性が指摘されたが、主にアラビア海と東南アジア海域周辺で発生していることから、エルニーニョ現象やインド洋で発生するダイポールモード現象などとの相関関係についても考察されている。
今年4月、学術誌「Earth and Space Science」にこの研究論文が掲載されたが、400年分のデータをもとにした最新科学により、神秘的な怪現象の正体が解き明かされる日は近いかもしれない。
(ジョン・ドゥ)