目を疑うほどの激しい大クラッシュをしながらも、驚異的なリカバリー。それは5月17日のF1第7戦、エミリア・ロマーニャGP予選Q1でのシーンだった。
ターン5の縁石に乗り上げた角田裕毅のマシンは制御を失い、ターン6奥のタイヤバリアへと激突。マシンは空中で一回転して大破したものの、角田は自力で脱出し、体に異常がないことが確認された。
だが、壊れたマシンはセッションを赤旗中断に追い込み、Q1通過タイムを記録できなかった角田は、翌日の決勝を最後尾の20番手からピットレーンスタートで迎えることになった。
レース中盤まで出遅れは否めなかったが、角田は序盤から慎重かつ果敢に攻め、39周目のタンブレロでランス・ストロールをかわすと、42周目にはフェルナンド・アロンソを追い抜いて、12番手へと浮上。そして終盤、ターン10でニコ・ヒュルケンベルグを鮮やかに抜き去り、見事に10位フィニッシュを飾る。貴重な1ポイントを手にした。
振り返れば、デビュー2年目の2021年エミリア・ロマーニャGP予選Q1でも、ほぼ同じ場所で縁石に乗り上げ、宙を舞ってマシンを大破させた経験がある。当時も赤旗が掲示され、タイムを失って最後尾スタートを余儀なくされた。
ポイントを得たとはいえ、期待を裏切る走行が続く角田に対し、辛辣な声が投げかけられる。
「また同じミスかよ」
「予選でプッシュしすぎ。学習しないのか」
「来年はシートがないかも」
トップチームのレッドブルに大抜擢された際、「世界的には大谷選手より日本人F1ドライバーのほうが有名」と豪語し、野球ファンの反感を買った角田だが、野球ファンはこの発言を決して忘れることはないだろう。
たび重なるクラッシュと挑発的な発言で風当たりは厳しいものの、壊れたマシンを復旧させてポイントを奪い返す粘り強さは、チームへの最大の恩返しと言える。
欧州でのモータースポーツ文化は、日本では考えられないほどのステータスがあるのは事実。25歳の角田に求められるのはなにより、トップチームでの実績だ。結果が出るようになれば、おのずと大谷との比較など問題にならなくなるだろう。
次戦のモナコGPで、どんな成長を見せるのか。
(ケン高田)