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記事全文を読む→寺脇研が選ぶ今週のイチ推し!〈存在自体が粋な人だった!名コンビが語る横綱の素顔〉
「粋 北の富士勝昭が遺した言葉と時代」
藤井康生・著
集英社/1980円
北の富士勝昭氏といえば、第52代横綱(在位1971~74年)で、昭和の角界における人気力士の1人だった。特に、同時昇進したライバル第51代横綱・玉の海との競い合いは「北玉時代」と称される。88年からは、25年間にわたりNHK「大相撲中継」の解説者として人気を博したことでも広く知られている。
本書は、この2つの側面を通して彼の人生を描き切った。著者は、85年以来、37年間にわたり、NHKで相撲実況を担当した藤井康生アナウンサーだ。元々が熱心な相撲ファンで、放送席で北の富士と並んで座っていた人だけに、これ以上の適任者はない。執筆のため、故人の肉親、親友、さらには行きつけの酒場の御主人にまで取材したという。
まず、中学3年で同郷の第41代横綱・千代の山を頼って上京した新弟子時代に始まり、引退するまでの17年間の土俵人生を振り返る。先輩からの暴力稽古で入院するなどの紆余曲折を経て、才能を開花させる辺りや、関取になってからの快進撃、豪快な酒と遊びの日々は痛快だ。
登場人物も名力士が揃っている。柏戸、大鵬、玉の海に加え、兄弟子だった第50代横綱・佐田の山も、北の富士が部屋を移籍したことにより、対戦相手として立ちはだかる。引退が近づいた頃には、後輩の輪島、北の湖、貴ノ花が追いついてくる。まさに、全盛を誇った昭和後期の土俵を飾るオールスターではないか。
歌手としての一面も綴られる。大関の時に歌手デビューすると「ネオン無情」が大ヒットして、「プレイボーイ横綱」「夜の帝王」の愛称で親しまれた。これを読むと、60代以上の皆さんは、彼の当時の美男子ぶりを思い出すに違いない。わたしも懐かしい気分に包まれた。
解説者としての自由奔放な発言や振る舞いは、全世代の知るところだ。元力士の落語家・三遊亭歌武蔵が高座でネタにすると、満場が爆笑する。それを、最も近い位置で見聞きしてきた藤井アナならではの暴露話の数々は、面白いに決まっている。とりわけ粋な話は、放送席に芳醇な香り(何の香りかは読んでのお楽しみ)を漂わせた一件だ。
そう。書名にもなっているように「存在自体が粋な人だった」と藤井アナは回想する。たしかに、本書の随所に出てくる粋なセリフ、粋な身の処し方は、ちょっと真似のできないカッコよさだ。わたしたちも、昭和を懐かしむなら、ただ懐古に酔うだけでなく、粋を大切にすることの意味を噛み締めてみたいものである。
巻末には「本日の正面解説は第52代横綱・北の富士勝昭さん、向正面は舞の海秀平さん、実況・藤井でお送りします」のアナウンスでお馴染みの舞の海氏までが登場し、この「黄金トリオ」の秘密を語ってくれているのも嬉しい。
寺脇研(てらわき・けん)52年福岡県生まれ。映画評論家、京都芸術大学客員教授。東大法学部卒。75年文部省入省。職業教育課長、広島県教育長、大臣官房審議官などを経て06年退官。「ロマンポルノの時代」「文部科学省 『三流官庁』の知られざる素顔」「昭和アイドル映画の時代」、共著で「これからの日本、これからの教育」など著書多数。
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