ふだんから小説に親しむ者以外にとっては、さほど関心のなかった文学賞を身近な話題にしてくれた‥‥。それが、「共喰い」で第146回芥川賞を受賞した田中慎弥氏(39)だ。
円城塔氏(39)とのダブル受賞、そして5回目のノミネートという話題もあったが、注目を集めたのは受賞会見での発言だ。
アカデミー賞のエピソードを引いて(受賞は)“当然”というジャブから始まり、その舌鋒は選考委員の石原慎太郎都知事(79)に向かった。
「(受賞を)断って、気の小さい選考委員が倒れて都政が混乱してはいけないので。都知事閣下と都民各位のために、もらっといてやる」
これには眉をひそめるムキもあったが、「おもしろい!」「同感」などの声も多く上がった。石原都知事が定例会見で今回の候補作について「バカみたいな作品ばかり」と言っていたり、また受賞会見の翌日に「全然刺激にならないから(選考委員を)辞める」と記者団に宣言したことで騒ぎはヒートアップ。石原VS田中の対立激化かと文芸界は色めき立ったのだ。
この有名文学賞を巡るイザコザについて「文学賞メッタ斬り!」などの著書で、歯に衣着せぬ論評で知られる書評家・豊崎由美氏に聞いた。
「(都知事は)過去の田中さんへの選評でどれだけひどいことを言っているか。一部の新聞記者が田中さんの発言に批判的な記事を書いているが、そこらへんの事情を知らないのでは。実際、私は川端康成文学賞受賞の時、田中さんにお会いしているが、どちらかというと、控えめで謙虚な方です」
さらに、都知事の選考委員辞任と田中会見を絡める論調については、
「都知事は円城さんの選考の過程に、怒って席を立ってしまったワケで、(報道が)田中さんのことと結び付けてしまうのは、ちょっと事実関係が違う」
と舞台裏を説明する。
そう言われてみると、田中さんが憮然としてみせた会見も納得できるような。一方、「刺激がなくなった」とケツをまくった形の石原都知事をどう評価するのか。再び豊崎氏が言う。
「そもそも、都知事はとっくの昔から新しい小説を読めなくなっている。恐らく、世界文学なんて70年代で止まっているのではないか。ともかく、自分で反論できないことにはすぐ怒る。また、自分が理解できないモノはおもしろくない。ホント、私は、彼こそが“一番のバカ”だと思っている」
まさに、一刀両断の勢い。返す刀で選考委員を辞めたことに関しても、
「芥川賞、そして若い才能にとって、彼は害悪でしかないので、万々歳、国民にとっても慶事だと思いますよ。ただ、ラジオ番組などで、彼をディスれなくなっちゃうのは残念(笑)。文学ウオッチャーとして、そういった意味では一抹の寂しさも感じます」
まずは、課題山積の都政に専念してもらうべきか。
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