芸能

日本を創った“荒ぶる男”たち<芸能界編>「石原裕次郎・勝新太郎・萬屋錦之助」

20150820z

 役者が一国一城の主だった時代、その豪放なエピソードはどこか愛嬌に満ちていた。芸能レポーターの草分けである鬼沢慶一氏は、戦後を代表する3人の役者と肌でぶつかり合った。

「オニよ、お前、子供は何人だ?」

 熱海の温泉旅館で湯船につかりながら、勝新太郎は鬼沢氏に聞いた。

「ウチは1人だよ」

 鬼沢氏が答えると、勝新は首をかしげる。

「おかしいな、オレは2人いるんだ。ところが裕サマはゼロだ‥‥」

 そうつぶやくと、石原裕次郎とともに立ち上がり、互いの股間をながめながら勝新流の哲学を放つ。

「見ろよ、俺は粗チンで、立派なのは裕サマだ。だけど裕サマには子供はいない。モノの大小じゃないんだ」

 鬼沢氏は苦笑しながら、大スターの無邪気なこだわりに感心したという。そして裕次郎、勝新と3人で出かけた温泉旅行では、こんな一幕もあった。

「夕食の時に勝さんが裕さんに『最近、チャンバラやってるんだって?』と聞くんだ。裕さんもようやく時代劇をやりだして、楽しがっていた頃。ところが、勝さんは例の座頭市の主題歌で『♪およしなさいよ~』と歌いだす」

 裕次郎が気色ばむと、勝新は時代劇の第一人者らしい言い方をした。

「裕さんに『兄弟、お前さんは港を背に立っているだけで絵になるんだ』と。勝さんは『俺みたいな短足とは違うんだ』と言ったあと、ニヤリと笑って『だけど時代劇は腰で勝負するから、八頭身のお前さんはやめておけ』と忠告したんです」

 72年の話である。以来、裕次郎は時代劇の主演をやらなくなり、初のテレビレギュラーである「太陽にほえろ!」(日本テレビ系)に新天地を求めた。

 戦後の日本映画界を支えた2人には、飲み屋で大立ち回りを演じたとの逸話が残っている。実は鬼沢氏はその場に居合わせ、事実は異なっていたと証言する。

「渋谷に芸能人しか入れないスナックがあって、そこに裕さんと行ったら、勝さんが先に来ていた。ところが、勝さんが連れていた女の人の足を、たまたま裕さんが踏んでしまった‥‥」

 その瞬間に勝新が立ち上がり、裕次郎に向かって「何だ、この野郎!」と言って一触即発。周りの客は、殴り合いは避けられないと、固唾を飲んで見守った。

「そしたら裕さんがニヤリと笑って『兄弟、お前、芝居がうまいな』と。それを受けて勝さんも『いや、裕ちゃんのほうこそうまいよ』って、2人だけの世界を楽しんでいたね」

 晩年の裕次郎は、度重なる病魔に苦しめられた。特に81年に発症した解離性大動脈瘤では、生存率3%という厳しい大手術を行う。幸い一命は取り留めたが、術後に自宅に招かれた鬼沢氏は「現実」を知る。

「奥さんの北原三枝さんが一口カツを作ってくれたんだよ。裕さんも食べたそうにしていたので、奥さんが『1つだけよ』と念を押した。ところが、そのカツは味もそっけもない。裕さんは1日に2グラムしか塩分をとってはいけないんだ。裕さんはそれでも、もう一口が食べたくてダダをこね、奥さんが泣きだしてようやく我慢をしていたよ」

 もう1人の大物である萬屋錦之介とは、出会いからして不穏な空気だった。錦之介が初めてテレビに進出した「真田幸村」(66年・TBS系)の会見が行われ、全国から放送記者が集まった。ところが会見は何の説明もないまま、30分以上も遅れている。ようやく錦之介らが姿を見せた時、記者団を代表して鬼沢氏が罵倒した。

「いいかげんにしろ! まず遅れた理由を説明しろ!」

 これに錦之介が不愉快になり、会見をキャンセル。それから数日後、錦之介の自宅を取材で訪ねると、鬼の形相で扉を開ける。間髪いれず鬼沢氏に向かって「敷居をまたぐな!」と叫び、取っ組み合いのケンカとなった。

「3発殴られて、俺も殴り返した。たまたま来ていた美空ひばりと淡路恵子が『やめて~』と泣くんだ。それでようやく錦之介が握手をして『おもしろかったよ』と言って決着。以来、兄弟分の間柄だよ」

 そんな好漢たちはいずれも、若くして世を去った。

カテゴリー: 芸能   タグ: , , , ,   この投稿のパーマリンク

SPECIAL

アサ芸チョイス:

    ゲームのアイテムが現実になった!? 疲労と戦うガチなビジネスマンの救世主「バイオエリクサーV3」とは?

    Sponsored

    「働き方改革」という言葉もだいぶ浸透してきた昨今だが、人手不足は一向に解消されないのが現状だ。若手をはじめ現役世代のビジネスパーソンの疲労は溜まる一方。事実、「日本の疲労状況」に関する全国10万人規模の調査では、2017年に37.4%だった…

    カテゴリー: 特集|タグ: , , , |

    藤井聡太の年間獲得賞金「1憶8000万円」は安すぎる?チェス世界チャンピオンと比べると…

    日本将棋連盟が2月5日、2023年の年間獲得賞金・対局料上位10棋士を発表。藤井聡太八冠が1億8634万円を獲得し、2年連続で1位となった。2位は渡辺明九段の4562万円、3位は永瀬拓矢九段の3509万円だった。史上最年少で前人未到の八大タ…

    カテゴリー: エンタメ|タグ: , , , |

    因縁の「王将戦」でひふみんと羽生善治の仇を取った藤井聡太の清々しい偉業

    藤井聡太八冠が東京都立川市で行われた「第73期ALSOK杯王将戦七番勝負」第4局を制し、4連勝で王将戦3連覇を果たした。これで藤井王将はプロ棋士になってから出場したタイトル戦の無敗神話を更新。大山康晴十五世名人が1963年から1966年に残…

    カテゴリー: エンタメ|タグ: , , , , , |

注目キーワード

人気記事

1
タモリが「後継指名」する大物アイドル(1)「ブラタモリ」終了のワケ
2
水谷隼がバラした「卓球界ははいてない人ばっかり」で平野美宇や石川佳純は…という素朴な疑問【アサ芸プラス2024年2月BEST】
3
タモリが「後継指名」する大物アイドル(2)終活を決意させた夫人以外のキーマン
4
掃除機をかけたら家中に大繁殖!この春に知っておきたい「トコジラミ対策」
5
とんねるず・石橋貴明が大谷翔平のドジャース・キャンプを訪問したらスター選手が興奮熱狂!その理由は…【アサ芸プラス2024年2月BEST】