政治
Posted on 2016年07月14日 05:55

田中角栄 日本が酔いしれた親分力(11)強引にもぎ取った「勝機」!

2016年07月14日 05:55

20160714r2nd

 72年(昭和47年)1月5日午後3時、佐藤総理をはじめとする日米首脳会談に出席するメンバーは、雨の中、羽田空港を日航特別機で出発した。

 田中系、それに福田系の1、2年生議員らに記者団を含めた30人近くが乗りこんだ。政治記者は福田派が4人、田中派が8人と、数の上で田中派が圧倒していた。ここからも、田中の意気込みがわかる。

 田中は、今回の日米首脳会談のニクソン大統領の狙いを読んでいた。前年の10月に日米繊維交渉に関して一応の解決を見た現在、次期選挙で自分のポイントを稼ぐためにカリフォルニア州での印象をよくしておこう、というものである。

 そんな状況を前提にして、田中は飛行機の中で作戦を立てていった。

〈いまニクソン大統領を救い、恩を売っておけば、自分に対するニクソンの心証もよくなる。ライバル福田との力関係も決定的になり、さらには佐藤さんの力を弱めることもできる〉

 田中は、外務大臣でもなければ、本来なら今回の会談へついていく筋でもない。だが、この機会は田中の未来を変える重要なものになることを理解していた。

〈アメリカ側は、次期大統領候補のコナリー財務長官が来る。アメリカの次期大統領ともコネを持っておこう〉

 また今回の同行には、アメリカ側に「次期総理は俺だよ」ということを、暗に主張する目的もあった。

 そのため、田中は自分のそばに、地元の新聞「ロサンゼルス・タイムズ」の東京駐在員サム・ジェームソン記者をピタリとくっつけていた。今まで外国人記者が随行する例はなく、田中は万全の態勢でサンクレメンテ会談に臨んだ。

 1月7日、ニクソン大統領は、佐藤総理との会談場から出ると、無蓋のゴルフカートを自ら運転し、正午からの昼食会の開かれるプールサイドに向かった。

 ニクソン大統領は上機嫌で、佐藤を隣の席に乗せた。会談場から飛び出し、その光景を見た田中はとっさに判断した。

〈乗り遅れてなるものか〉

 田中はゴルフカートに飛び乗った。後部の日米通訳官が腰かけるシートに割りこむように席を占めた。

 ニクソン大統領は、昼食会場に到着すると田中の肩を叩き、抱きかかえんばかりにしてテーブルに案内した。

 ニクソン大統領を囲んで、右に佐藤総理、左に田中が座って談笑を始めた。

 遅れて到着した佐藤文生代議士は、片言の英語で話しあう田中の背中越しに、テーブルのネームプレートを確認した。

 田中の座っている第1テーブルに座るメンバーは、前もって決められている。アメリカ側はニクソン大統領、ロジャーズ国務長官、キッシンジャー特別補佐官。そして日本側は、佐藤総理、福田外務大臣、牛場信彦駐米大使、佐藤文生である。

 田中は第1テーブルでなく、第3テーブルでスタンズ商務長官、ケネディ特使らと同席することになっていた。これは、明らかな割り込みである。

 案の定、田中の座っている席には「BUNSEI SATOH」というネームプレートがあった。驚いた佐藤文生は、3人の会話の隙を見つけ、田中の袖をおそるおそる引いた。

「大臣、お席が‥‥」

 ところが、興奮で赤くなっている顔をふりむけた田中は、佐藤文生を睨みつけるようにして言った。

「わかっている! わかってるよ。これでいいんだ。いいんだ。一生恩に着る。これでいいんだ」

 佐藤文生は、とっさに察した。

〈今、日本の次期総理大臣の椅子を巡っての大政治ドラマが繰り広げられているのだ〉

 少し遅れて入ってきた福田は、驚愕した。田中が、ニクソン大統領の隣で談笑しているではないか。福田は、今一度眼を凝らして田中の姿を確認した。見まちがいではない。

〈一体何が起こったのか〉

 田中は、口をへの字に結び、三白眼を宙にさまよわせた福田を尻目にニクソン大統領に、「次の総理は私です」と言わんばかりに己を売り込み続けた。

 田中は翌日、宿泊先のリゾートホテルのロビーで、「ニューヨーク・タイムズ」に眼を通しながらほくそ笑んだ。日米会談を伝える記事が一面トップを飾っている。そこには、ホワイトハウス提供の昼食会の写真が大きく載っていて、談笑する佐藤総理、ニクソン大統領、田中の3人の顔しかなかった。ライバルである福田の顔はなかった‥‥。

作家:大下英治

カテゴリー:
タグ:
関連記事
SPECIAL
  • アサ芸チョイス

  • アサ芸チョイス
    社会
    2026年03月01日 08:30

    3月16日の確定申告期限が刻一刻と迫る中、国税当局が不穏な動きを見せている。ターゲットは、SNSやマッチングアプリを主戦場に男性らから多額の「手当」を吸い上げるパパ活女子、そして華やかな生活を売りにするインフルエンサーたちだ。かつては「男女...

    記事全文を読む→
    カテゴリー:
    エンタメ
    2026年03月03日 07:00

    小学館の漫画アプリ「マンガワン」をめぐる問題が、波紋を広げている。発端は、過去に児童買春・ポルノ禁止法違反で罰金刑を受けていた漫画家が、別名義で新連載を開始していたことだ。編集部は起用判断の不備を認め、当該作品の配信停止と単行本の出荷停止を...

    記事全文を読む→
    カテゴリー:
    タグ:
    社会
    2026年03月05日 15:30

    ロケット打ち上げが、また失敗した。宇宙事業会社スペースワン(東京都港区)が3月5日午前に、和歌山県串本町のロケット発射場「スペースポート紀伊」から打ち上げられた小型ロケット「カイロス」3号機は上空で飛行中断。打ち上げから4分後の措置だった。...

    記事全文を読む→
    カテゴリー:
    注目キーワード

    人気記事

    1. 1
    2. 2
    3. 3
    4. 4
    5. 5
    6. 6
    7. 7
    8. 8
    9. 9
    10. 10
    最新号 / アサヒ芸能関連リンク
    アサヒ芸能カバー画像
    週刊アサヒ芸能
    2026/2/24発売
    ■650円(税込)
    アーカイブ
    アサ芸プラス twitterへリンク