社会
Posted on 2018年01月30日 05:55

鈴木哲夫の政界インサイド「阪神・淡路大震災の復興は道半ば」

2018年01月30日 05:55

 あれからもう23年、いや、まだ23年と言うべきか──。

 政治がとるべき態度は後者、「まだ」のほうだと思う。この1月17日で阪神・淡路大震災から23年が経過。いまだ、あの時の傷を引きずる人は多いからだ。

 現在、とりわけ政治や行政に重くのしかかっているのが、災害復興公営住宅での孤独死。去年1年間で64人がひっそりと亡くなった。累計でも1027人が孤独死している。

 震災で住む場所を失った被災者が仮設住宅を出て、自宅を再建できれば幸いだ。が、そうはいかなかった人もいる。自力で家を建てられなかった人のために、行政は00年までに災害復興住宅4万2137戸を供給した。新規建設もあり、用地確保は難航。住み慣れた地を離れなければならない被災者も多かった。

「復興住宅入居者では高齢者が圧倒的多数を占めていました。隣近所のつきあいなど、あらゆる環境が変わって、引きこもりがちになり、一人暮らしのお年寄りが孤独死するケースが増えたのです」(兵庫県庁担当者)

 現に、先の64人のうち85%が65歳以上であった。また、死因の中には、自殺が6人含まれており、発見までに1カ月以上かかったケースも複数ある。地域とのつながりの欠如、コミュニティの崩壊が明らかとなっている。

 復旧・復興は行政の急務。だが、復興住宅で雨風をしのぐことはできても、被災者の心まで覆う屋根を作ることはできない。それほど被災者の人生は震災に翻弄され、新しい生活の準備には時間がかかるのだ。

 急ぐことだけが復興ではなく、政治が被災者に寄り添うことも重要なのだ。

 例えば、04年と07年の二度にわたって起きた新潟県中越地震。被災地の長岡市の森民夫市長(当時)が、「被災者の心」を第一に復興に取り組んだ。

 家屋が崩壊した地域住民に対して、市は災害復興住宅の建設を決め、高台に土地を確保して移転してもらう方針を決定。しかし、急ぐことはしなかった。

 住民が移転を決意するまで待ったのだ。市は住民たちの会合などにアドバイザーを参加させ、心のケアや集団移転の疑問点に答えるなど対応。そして、約5年後にようやく住民たちが住んでいた場所を離れる決意をして、初めて復興住宅に移ったのだった。

 当時、取材した長岡市役所担当者はこう話した。

「時間をかけることは、復旧・復興を急ぐという行政の使命とは矛盾するかもしれないが、慣れ親しんだ場所を離れることを住民自身が決心して初めて前へ進めるのではないか。少なくとも、その後、復興住宅に移っても頑張って生活できる。被災者の心に寄り添うというのは、そういうことだと思っている」

 危機管理のエキスパートと呼ばれた故・後藤田正晴氏は、阪神・淡路大震災当時、右往左往していた、自社さ政権の村山富市首相に、

「天災はしかたがない。しかし、そこから先に起きたことは全て人災。やれることは何でもやれ。それは政治の責任だ」

 と覚悟を迫った。被災した住民には何の罪もない。震災によって突然、人生を変えられただけだ。

 23年たった今でも、政治の役目は終わっていない。救えない被災者がいるのなら、まさに「政治による人災」と言えるだろう。

 先の孤独死に対して、見守りの仕組みなどが見直され縮小されつつあるという。最後の一人まで、時間をかけて寄り添う姿勢を、もう一度、国や自治体が心する節目としてほしい。

ジャーナリスト・鈴木哲夫(すずき・てつお):58年、福岡県生まれ。テレビ西日本報道部、フジテレビ政治部、日本BS放送報道局長などを経てフリーに。新著「戦争を知っている最後の政治家中曽根康弘の言葉」(ブックマン社)が絶賛発売中。

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