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記事全文を読む→田宮二郎の妻“没後38年目の初激白”(9)「田宮の遺書に書かれていた家族への想い」
「もうどうにもならない。奥さん、すぐ来てもらえますか?」
小林プロデューサーから呼び出された幸子夫人は、殺意の目を向けた田宮とは別人の姿を見る。かつて、脚本や演出にも口を挟んだクリエイティブな姿勢は、どこにも存在しなかった。
「エネルギーがまったくなく、とにかく私に詫びて、後悔の念でひたすら泣くんです。うつ病のせいで集中力もなく、セリフが頭に入ってこないんです」
田宮が演じた財前教授は難解な医学用語を使い、さらに医療裁判にも駆り出されていたため、セリフは膨大である。元女優の夫人は、田宮のセリフ合わせにも根気よくつきあった。
「彼は苦しんでいましたが、あと少しですべての撮影が終わるという責任感のみで立っていられたのだと思います」
また同時に、田宮は「ずっと自殺を考えている」とほのめかすようになった。夫人は旧知の精神科医・斎藤茂太に相談する。
斎藤は「その状態であれば、むしろ死ぬことはないから安心だ」と答えた。ただし「ちょっと元気が出てきたら目を離してはいけない」と告げた。
田宮のもとに夫人が戻ったことで、安心感を持ったことは否めない。絶望の淵から再生の力が芽生えたことにより、皮肉にも自殺へのエネルギーも蓄えたことになる‥‥。
11月15日、田宮は「白い巨塔」のすべての撮影を終える。山本學や太地喜和子ら共演者に深々と頭を下げて回った。
12月26日、田宮は夫人とともにフジテレビで最終回の試写を観る。
〈ガン専門医でありながら、手術不能のガンで死ぬことを恥じる〉
その言葉を最後に財前は息を引き取り、荘厳なミサが流れるなか、ストレッチャーに乗せられてゆく。吹き替えなしで自身が死体の役を演じ、試写を観て「役者冥利に尽きる」と感慨深げであったという。
夫人はこのシーンを語る田宮に、こう思った。
「自分が近々、死を迎えるという胸に迫るものがあったんでしょう」
その日から2日後、田宮は猟銃を胸に当てて最期の瞬間を迎えた。妻として、そして「田宮企画」の代表として、幸子夫人は激流に対処した。
それは、葬儀を終えてもなお続いた──。
「田宮の金銭のことだけでなく、倫理に外れた女性の問題に関してもいろんな方のお力を借り、きっちりと後始末をやりました」
多くは語らずとも、妻としての強さと、意地をにじませる。そして長々と書かれた田宮の遺書には、妻や2人の子への愛情があふれんばかりに込められていたという。
「生涯を賭けて愛するという家族への言葉を、いまわのきわに書き記した田宮の誠意を万感の思いでしっかりと受け止めました。永遠の安らかな眠りを祈るばかりです」
田宮二郎という激烈な生を過ごした俳優は、今こそ再評価されるべきだろう。それこそが没後の沈黙を初めて解いた幸子夫人の願いでもある。
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