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孫正義 長者日本一への⑦決断 「ドコモに勝つには『物語性』『ナゼ?』がほしい」(4)

好感度VS経済的効果で激論

 父親がどうして犬なのか、という謎を常に含みながら、第2作、第3作とシリーズが進むごとにさまざまな謎が解けていく。

「お父さんって、実は中学校の先生だったのか」

「お母さんって、そこの校長先生だったのか」

「お父さんは、ソルボンヌ大学を出ていたんだ」

 孫から見ると、佐々木にしても、澤本にしても、デザイナーの大貫卓也にしても、CMの送り手の側と受け手の側、両方の心理を知り抜いている。そのうえ、犬のお父さんをはじめキャラクターに対する愛情、CM1本1本に対する情熱が深かった。ユーモアのセンスもある。だからこそ1作1作が、バランスがとれた優れた広告作品となっていた。

 現在でもソフトバンクのCM企画会議は毎週開かれ、そのたびに2時間から3時間かける。

 もともと、小学生の頃には画家を目指したこともある孫である。

 孫は、ソフトバンク社長という立場ではなく、あくまでもクリエイターの1人として自由な発想の議論に加わった。クリエイターたちと同じ視点で侃々諤々議論できることが楽しくてならなかった。

 ただ、佐々木らとは同じCM制作でも見方が異なる。佐々木らがCMの好感度に力点を置いているのに対し、孫はCMの経済的効果をまず考える。そのCMで、ソフトバンクが売り出す新商品の売り上げが、10%でも20%でも上がるかどうかを計算する。その上で好感度に目を配る。

 あまりにも意見が一致しない場合には、孫は、冗談まじりで言う。

「どうしてもそっちの意見がいいと言うなら、お前らが自分でカネを出せ。おれんとこのカネは、出さん」

 お互いが充分に議論を尽くすが、最後は強権発動するしかない覚悟でいる。

「白戸家」シリーズは好評を博した。CM総合研究所調べによる「CM好感度」ランキングでは、06年6月から放映された第1弾の「家族の疑問」編は、NTTドコモの「自己紹介」編に抑えられて2位に甘んじたものの、翌月には、「家族で通話」編で好感度1位にランキングされた。「家族で通話」編の人気は根強く、07年度のCMブランディング評価でも1位となった。08年10月19日から1年間遡って、東京キー局で流された9595本のCMの頂点を極めた。

 08年も、1位となり、V2を達成した。

 さらに「ホワイト家族」シリーズは、全日本シーエム放送連盟のテレビ部門グランプリとベスト演技賞に選ばれた。

 ソフトバンクモバイルのCMは、新作が出るたびに好感度ランキングでトップとなっている。

 白戸家だけのドラマだけでは、飽きられてしまう。NHK大河ドラマ「篤姫」に出演して話題となっていた女優の松坂慶子を行きつけのバーのママ役として登場させたり、「無料のワ『イルカのおじさま篇』」では犬の叔父さんとして、シロイルカを登場させたりもした。

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