事件

歴史に秘められたニッポンの「陰謀論」を解け!(2)戦国武将たちの「俗説」を問う

 公式な記録資料がなく、子孫の思惑によって「描かれる」ことも多い戦国武将の合戦絵巻。研究家たちが、歴史を動かした謀略の裏側を論破する。

 たびたび映画やドラマの題材になり、戦国マニアならずとも関心が高いのが「本能寺の変」(1582年)であろう。京都・本能寺に宿泊した主君の織田信長に対し、家臣の明智光秀が「謀反」を起こして襲撃した一件である。

 これまで数多くの「黒幕説」が浮上した。朝廷や第15代将軍・足利義昭をはじめ、徳川家康、毛利輝元、羽柴秀吉などの名前が並ぶ。あるいは「光秀と秀吉」など共謀説も、無数の組み合わせで浮上する。

 大胆な説を唱えたのは、ミステリー作家・鯨統一郎氏だ。著書「邪馬台国はどこですか?」の中で、精神的に追い込まれた信長の「自殺説」を主張する。かなり飛躍した見立てだが、それほど「本能寺の変」が歴史上、最大のミステリーと言われるゆえんである。

 そして全ての「黒幕説」に異を唱えるのは、日本中世史の博士号を持つ呉座勇一氏だ。ベストセラーとなった「応仁の乱」に続く近著「陰謀の日本中世史」において、いわゆる“俗説”を論破。

〈イエズス会は信長の天下統一事業を軍事的・経済的に支援した。しかし信長は自己神格化を図るなど、イエズス会からの自立を志向するようになったため、光秀を動かして信長を討たせ、さらに秀吉を動かして光秀を討たせた──。このイエズス会黒幕説の最大の問題は、イエズス会が織田信長に援助を行っていたことを裏付ける資料が全く存在しない点にある〉

 呉座氏は、それならば「黒幕は宇宙人」と言っているのと同じレベルと、手厳しい。

 これらのことを踏まえ、光秀の謀反に「黒幕は存在しなかった」という結論にたどりつく。

〈強いて言えば織田信長の油断によって条件が満たされた。したがって、突然訪れた好機を逃さず決起したという突発的な単独犯行〉

 これが結論である。そして歴史は光秀を討った秀吉から、徳川家康の天下へと移る。

 分け目となった「関ヶ原の戦い」(1600年)は、秀吉の没後、家康率いる東軍と、石田三成率いる西軍が戦ったとされる。

 ところが近年、日本史の教科書には「そもそも西軍の総大将が三成ではなく、毛利輝元である」と改訂されている。250万石の大大名である家康に対し、19万石の三成が対峙という図式は考えにくいというのだ。

 そんな「関ヶ原」では、軍勢では西軍が上回っていたが、わずか7時間で東軍の勝利に終わる。その背景には「西軍の小早川秀秋が家康に寝返ったから」というのが通説。だが、はたしてそうか。

 実は小早川の裏切りは西軍にとって想定の範囲内。三成と密接な仲の大谷吉継は謀反を警戒しており、東軍についた小早川を別働隊で押し返している。

 それでも西軍が負けたのは、家康の調略(政治的工作)が小早川以外の武将にも及んでいたこと。毛利家の吉川広家を調略し、毛利軍2万9000の兵を進軍させなかったという。

 また近年、何かと取りざたされるのが「関ヶ原の黒幕はエリザベス1世」だったという説。論理となるのは、日本との貿易で銀を手にしたいイギリスだったが、西軍にはキリスト教徒が多く、スペインやポルトガルと密接。ならばとエリザベス女王は家康を担ぎ出した、というのが理由とされる。

 残念ながら飛躍した展開が多く、そもそも女王の密命を受けたとされるウィリアム・アダムス(のちの三浦按針)は、ただの船乗りにすぎなかったようで、検証には値しないようである。

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