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記事全文を読む→深作欣二のバイオレンス、皆が「この人のためなら」
貧しい生家の家計を助けるため、時子は幼い頃から「藤乃屋」で奉公していた。女将の里江(富司純子)は、いよいよ時子が舞妓となるために、高額な水揚げ料を工面するスポンサーを探した。そして北山の大尽(加藤武)が見つかり、時子は飛翔の瞬間を迎える‥‥。
その日が決まり、時子はかつての恋人への気持ちを断ち切るため、青年の仕事場へ向かった。視線の向こうには、青年がハツラツとした表情でトラックに乗り込んでいる。
このシーンで宮本は、初めて深作に異を唱えた。
「ここは膝から崩れ落ちて泣いてほしい」
そんな監督のプランだったが、宮本はすでに時子と一体化していた。瞬時に「それは違う!」と思い、新人女優が大監督に初めて逆らった。
「幼い日から時子は、ここまでいろんなことに耐えてきました。そして気持ちの区切りをつけるこの場面、私だったら笑って終わらせたい」
大粒の涙が自然にこぼれながらも、その顔はさわやかな笑顔に満ちている。結果的に深作は新人女優の意見を採用し、劇中でも白眉のシーンとなった。さらに、完成後にこんな一幕もあったと宮本が言う。
「監督は涙を流しながら私に言ったんです。キミのおかげでいいシーンが撮れたよって」
最後の水揚げの儀式を迎える場面では、面談時の約束どおりフルヌードが待っている。そのことに抵抗はなかったが、事務所も含め、前バリを貼るかどうかで意見が分かれた。宮本も、本心では万が一のために貼っておきたかったが、深作の一言を聞く。
「僕が過去に撮った女優で、前バリを使った人は1人もいないけどね」
このため、完全に何もつけていない状態で臨んだ。風呂場で身を清める場面から、大尽に抱かれるシーンまで画面はソフトフォーカスの状態になっているが、これは木村大作のアイデアでカメラにワセリンを塗ったものだという。幻想的なシーンに仕上がったが、0号試写では宮本のヘアが画面に映っていた。
「監督はそのまま使いたかったようですけど、やはり事務所としてはNGカットになりました」
撮影が終わっての打ち上げの場で、宮本は多くのスタッフから胴上げをされた。老舗の京都撮影所でも初めての光景に、深作がニコニコしながら見ていた顔が忘れられない。
深作にとって59本目の監督作が「おもちゃ」で、61本目が遺作となった。宮本は深作がガン転移の会見をしたことを受け、電話をかけた。
「監督が『もう現場で叫べないんだよ』とおっしゃって、私が『だったら代わりに叫びに行きますよ』と言ったのが最後の会話。撮影中はこだわりのあまりに皆が振り回されるけど、誰1人として監督の悪口を言わない。皆が『この人のためなら』となってましたね」
女優の出発点が「深作組」でよかったと、宮本は今も変わらずに思っている。
〈文中敬称略、次回は「仁義なき戦い」〉
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