85年4月より放送された「澪つくし」。千葉県銚子を舞台に、老舗醬油屋の娘(沢口靖子)と漁船の船主の息子(川野太郎)の純愛を描いた作品で、平均視聴率44.3%、最高視聴率は55.3%を記録。あの「おしん」(83~84年)に次ぐ高視聴率を叩き出した人気作を、脚本のジェームス三木氏が振り返る。
──ヒロインは当時19歳の沢口靖子(53)でした。
三木 武田鉄矢主演の映画「刑事物語3 潮騒の詩」(84年、東宝)を見ていたら、ものすごくかわいい子が映っていたんだよ。恋人の妹役がいいんじゃないかと思って、プロデューサーに教えたらヒロインに即決。公募していたオーディションが意味のないものになっちゃったんだよな。
とにかくかわいくて、撮影が始まるとカメラ映りも抜群だった。ところがね、初めての連続ドラマで慣れてないものだから、たどたどしい。スタッフから「3行以上のセリフはやめてください」と言われて大変だったんだから。セリフを短くしたところでたどたどしさは変わらなかったけど、彼女の一生懸命さが全てをカバーしてくれたね。
──主な視聴者である奥様層の心をがっちりつかんだのは、なぜなのでしょう。
三木 沢口靖子を見て「もうちょっと何とかならないの」ってハラハラしていた視聴者が、だんだん彼女のいたいけな懸命さに気づいて応援したくなったんだろうね。彼女は大阪出身だったから、関西弁のイントネーションを直すのが大変で、事務所の人が親兄弟に会わせないようにしていたの。
撮影現場では主に母親役の加賀まりこさんが指導していたけど、容赦なかったから、彼女にとっては怖かったと思うよ(笑)。津川雅彦さんら男性陣は優しく教えてた。それでも撮影現場では「撮り直し!」「やり直し!」って声がよく響いて、泣きながら撮影していたみたい。
──男性の共演者も、沢口靖子の健気さに魅了されていたんですね。
三木 ものすごくかわいかったからね。当時は僕もほれ込んじゃって、口説くわけじゃないけど寿司に誘ったんだよ。そうしたら離れて座るわけ。どうやらタバコがダメだったみたいだけど、僕は譲らなかった。タバコを吸ったばかりにフラれたってわけだね(笑)。とにかく、初めの頃は“濡つくし”なんて間違われることもあった作品が高視聴率を取れたのは、沢口靖子のおかげ。僕は今でも朝ドラの中でナンバー1の女優だと思ってる。
──ヒロインの異母姉役として桜田淳子(61)も出演していました。
三木 先輩ながらヒロインの沢口靖子をしっかり立ててたし、いい子だったよ。「澪つくし」のあとに大河ドラマ「独眼竜政宗」(87年)でも一緒に仕事をしたんだけど、そのあと彼女の宗教問題で作品の再放送ができなくなったりして(※現在は視聴可能)、参ったなと思ったことはあったな。何も知らなかったし、まったくわからなかった。
むしろ当時、誕生日パーティーに招待されて「あなたは“名器”だって噂があるけど、本当のところはどうなの?」なんてことを言った覚えがあるね。実際に見たわけでも、試したわけでもないのに、なんでそんなことを言ったのか(笑)。
──朝ドラならではの苦労はありましたか?
三木 連続156回の長丁場をどうもたせるか。試練を乗り越えて結ばれた恋人を死なせたり、実は生きていたけど記憶喪失だったり‥‥と、いろいろな要素を入れ込んで大胆な展開を意識したね。舞台となる町はNHKの指定。そこから下調べをして進めていったけど、“受信料の未払いの多い地域”を舞台に選ぶなんて噂を聞いたこともあったな(笑)。まあ、もう昔の話だけどね。