政治
Posted on 2020年04月23日 09:55

歴代総理の胆力「竹下登」(4)「退」で躓いてしまった慎重居士

2020年04月23日 09:55

 そうした竹下は、政権を取ると、「落とし所に落とす」形で、狙い通り消費税導入を成功させた。

 一方で、外交は前任の中曽根康弘の方向性を踏襲、対米、対中関係とも、手堅さでこれをこなした。しかし、内政は、消費税導入のインパクトが大きかっただけに、「ふるさと創生」と銘打ったすべての地方自治体に好きに使えと配った国庫支出金1億円は、反動的に評判が悪かった。慎重な性格で鳴った竹下にしては、いささか浮かれた“上手の手から水が漏れた”感があったとも言えたのだった。

 こうした竹下のリーダーシップは、じつは中国の春秋時代の兵法者の一人の、呉起(ごき)が魏(ぎ)の武官に説いた「四軽、二重・一信」の「リーダー学に合致していたのだった。

「四軽」とは、(一)部下の仕事を軽く感じるようにしてやる。上司はあまり偉そうなことは言わず、そのうえで部下が自分には十分な能力があるのだと思わせること、(二)リーダーは周囲との人間関係を重々しいと感じさせてはいけない、(三)職場のしきたりなどの重圧感は取り除いたほうがいい、(四)自由な空気をかもし、上司が部下の頭を押さえつけるような仕事の進め方は改める必要がある、ということである。

 また、「二重」とは、重い賞と重い罰を示し、アメとムチによる公平な“信賞必罰主義”の徹底を求めている。さらに、「一信」とは、上司はあくまで部下との信頼関係に心を砕くべしとするものである。

 こうした気配りを軸とした「竹下流」を、竹下の妻・直子はこうも言っていた。

「夫の気配りの凄さは、私に対しても同じでした。夜中、トイレに立つときでも、わざわざ階下まで下りていくんです。水洗の水音で、私が目を覚まさないとの気遣いなんです」

 しかし、こうした独特のリーダーシップで安定飛行に入ったハズの竹下政権だったが、意外や2年の短命で終わった。リクルート事件に連座、引責での退陣ということであった。

 慎重居士の竹下は、惜しむらく「退」で躓いた。画竜点睛を欠いた、と言えたのだった。

■竹下登の略歴

大正13(1924)年2月16日、島根県生まれ。学徒動員により陸軍飛行隊員として入隊。早稲田大学商学部に復学。昭和33(1958)年、衆議院議員初当選。昭和62(1987)年11月、内閣組織。総理就任時63歳。平成12(2000)年6月19日、76歳で死去。

総理大臣歴:第74代 1987年11月6日~1989年6月3日

小林吉弥(こばやし・きちや)政治評論家。昭和16年(1941)8月26日、東京都生まれ。永田町取材歴50年を通じて抜群の確度を誇る政局分析や選挙分析には定評がある。田中角栄人物研究の第一人者で、著書多数。

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