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記事全文を読む→藤井聡太「8冠」までの1000日計画(5)盤面全体の体勢が崩れない
同じ棋聖戦第2局において、派手さで言えば、むしろ序盤から中盤にさしかかる陣形構築段階での「5四金」という手が目立っていた。
5四金は、金を守りに使わずに、中央の制圧と最前線に出動させる意図がある。
この手について佐藤七段の評価は、世間の将棋通ほど高くはない。だが、藤井棋聖の成長の過程がうかがえる一手だったという。解説を聞こう。
「こちらも指された時は、『そこに指してくれるんですか。ありがたい!』と思う一手でした。プロ棋士のセンスからすると『前のめりに来ているな』と。私も、タイトル戦でちょっと力んでいるんじゃないか、さすがの藤井さんでもこういうことがあるんだなと思ったくらいでした。よくあるのは、カウンターを食らってやられちゃうパターンで、気合いが入りすぎた悪い見本のような手なんです。藤井さんはこれほど強引な指し方をそれまでしていなかったので、意外な気がしました。でも、これこそ日々成長し、変化していく証しなのかなとも感じたのです」
5四金を見て、佐藤七段は藤井将棋のバランス能力が上がっていることを感じ取った。
「基本的にデビュー当時からバランスがいいのです。つまり、駒同士の連携がよく、全部の駒をしっかりと使っていること。これは本格派の特徴です。ですが、それにしても、5四金は前のめりが過ぎる。なのに、盤面全体の体勢が崩れないのは、腰を以前より相当しっかり落としている証拠なんです」
その背景として、この春・夏のコロナ禍で高校は休校となり、その間、自宅で将棋を研究し直す時間が取れたことが挙げられる。
「そこで5四金を指してみようと準備したのだと思います。コロナ明けの再開で、たくましく、また強くなった印象です」
さて、さらに藤井将棋の強さの秘密に迫るため、ここで将棋の組み立てを少し考えてみよう。
将棋の一局は開始から投了まで「序盤」「中盤」「終盤」に分けられる。
序盤では戦型選択、築城、自陣の整備が行われる。中盤は互いの駒がぶつかり始める。損得を主張し合い、駒を取り合う。そして五分の勝負を優勢にもっていく。終盤は城を崩し、相手の玉を討ち取る。それぞれで、棋士が使う能力は少しずつ違う。佐藤七段によれば、それは以下のようになる。
序盤=「知識」「経験」
中盤=「読み」「感覚」
終盤=「感性」「才能」
知識や経験が付けば序盤巧者になっていくし、読みと感覚が研がれれば中盤を制することができるようになる、という塩梅だ。
例えば序盤に関しては、若手よりベテランに利があり、若手はボロを出しやすいと言われている。若き日の羽生善治になぜ大逆転が多かったかといえば、序盤をあまり得意にしていなかったためすぐ劣勢になっていたから、という説もあるほどだ。しかし、現代の棋士たちは棋譜データベースにアクセスでき、コンピュータを使った順列組み合わせの研究も盛んになって、序盤をカバーできる若手が増えている。
佐藤七段は棋士の成長の秘訣について、こう話す。
「成長といっても、これら6つの要素全部が徐々に備わっていくかというと、そうではありません。棋士たちは必ずやどれかの強さに特化するものです。それが人間ですから」
それを踏まえ、藤井聡太棋聖の成長を見てみよう。
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