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記事全文を読む→掛布雅之「バックスクリーン直撃談」特別編(1)バースとの勝負に見た「江川の意地」
王貞治氏のシーズン本塁打55本から今年で49年。プロ野球選手にとってこの数字は大きな壁であり続けた。かつてその記録に挑んだ阪神のランディ・バースと、敬遠せずに立ち向かった巨人・江川卓との名勝負の舞台裏を、本誌連載「バックスクリーン直撃談!」の掛布雅之氏が明かす。
日本プロ野球のシーズン本塁打記録という時計は、約50年間も止まったまま。しかし今年、そんな時計の針を動かそうとしている選手がヤクルトのバレンティンです。シーズン戦も残り26試合(9月6日時点)ですから、1試合4打席として、まだ100回以上は打席に立てる計算になる。ファンの期待が高まるのも当然です。
その一方で懸念されているのが、敬遠問題です。考えてもみてください。50本近く打っている打者は投手から見れば、脅威そのもの。もし普通の選手と同じように勝負しようものなら、いつものように豪快な本塁打を打たれて終わりです。
しかも今はクライマックスシリーズの導入によって、昔のようないわゆる消化試合というものがほとんどありません。どの球団もクライマックスに出るためAクラス入りに必死。自力優勝がなくなったからといって、試合を捨てるような戦い方ができないのです。
そうなれば、ランナーがいる時はもちろん、僅差の勝負になればなるほど、バレンティンが歩かされるのは当たり前の話。勝負をしなければいけないからといってチームの勝ち星を無視する選手がどこにいるのでしょうか。
9月3日の巨人戦でもそうです。3対2とヤクルトが1点リードのまま迎えた9回。二死ランナー二塁での場面で巨人の青木がバレンティンに敬遠策を取りました。そして9回の裏に坂本勇人などがヒットでつなぎ、最後は代打の矢野謙次がタイムリーヒットを放ち同点。結局、延長戦までもつれ、引き分けの形まで持っていきました。
青木が敬遠した際、球場からはブーイングが起こりました。しかし、敬遠策を取った結果として、巨人が同点に追いついたのは紛れもない事実。原監督が試合後に「本塁打どうこうではなく、我々は勝つために試合をし、戦っている」と語るように、チームの勝利を優先させれば、あの場面で52本もの本塁打を打つ強打者と勝負するのは、明らかなお門違いなのです。
あくまでも野球はチーム同士の争いです。選手個人の記録とチームの勝利。野球に関わる全員がこの2つはしっかりと区別しなければ、本当の意味での真剣勝負は成り立ちません。もちろん、むやみやたらな敬遠は絶対に避けなければいけないですし、そんなことは今やファンやマスコミが許さない時代でもあります。
85年の阪神優勝時のバースも、実はそうでした。あの年、バースは54本の本塁打を打ちながら、巨人とのシーズン最終戦となる2連戦では1本も打てず、記録更新とはなりませんでした。
初戦では、先発した江川が全打席勝負をしたことが語りぐさになっていますが、その背景にはバースとの相性のよさがあります。つまり、江川はバースに対して非常に強かった。この年のバースは打率3割5分。しかし、江川に対しては2割近くしか打てていなかったのです。ちなみにバースが過去、江川から打った本塁打はたったの3本のみ(85年は0本)。いかに江川がバースを抑えていたかがおわかりでしょう。
あの試合でも、江川はバースを抑えられるという自信がある中で投げていた。最終戦では江川だけが勝負したと言われていますが、裏を返せば江川だけがバースを抑えられた巨人の投手なんです。江川であればバースを敬遠するよりも勝負をしたほうが勝ちにつながる。巨人サイドはそう判断して、江川にGOサインを出した経緯があります。
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