社会

東京都「首都直下地震等被害想定」の大ウソを暴く(17)焼死、圧死、放置死、餓死……かくして大量の遺体は「野ざらし」にされる

 85年の日本航空123便墜落事故で「無残な遺体」の捜索や収容に苦闘していた隊員らの昼食に「鶏肉の照り焼き弁当」を配給した日航の「現場責任者」──。

 前回紹介した群馬県上野村の故・黒澤丈夫村長が時に涙を滲ませ、時に声を震わせながら筆者に語った静かな怒り。ほかならぬ現場責任者が、現場のリアルをイメージすることができない意識のズレと想像力の欠如は、今回の新被害想定で「遺体処理問題」に関する記述をわずか1ページで片付けてしまった都の防災会議にもそのまま当てはまる。

 都の元総務局総合防災部幹部も、呆れ顔で次のように指摘するのだ。

「例えば、最大の被害が見込まれている都心南部直下地震が都区部を襲った場合、被災現場では具体的に、どのような地獄絵図が展開されることになるのか。まず欠落しているのがこの点です。真っ先に思い浮かぶのは、木密地域(木造住宅密集地域)における、夥しい数の圧死者や焼死者です。かろうじて圧死を免れた自力脱出困難者からも、延焼による大量の焼死者が出るでしょう。同様に、旧耐震基準の雑居ビルや事務所ビルでも圧死者が続出するほか、生存者も救助の手が差し伸べられないまま、放置死を余儀なくされるのです」

 それだけではない。7月2日配信の当連載でも指摘したように、運よく焼死や圧死や放置死を免れた人々も、その後に襲いかかる食料や水の枯渇によって、次々と行き倒れ(餓死)に追い込まれていくのだ。元総務局総合防災部幹部が続ける。

「その場合のタイムリミットはわずか3日(72時間)です。しかも、現場は自力脱出困難者すら救助できない修羅場と化しますから、震度6強以上の揺れに襲われる、都区部のおよそ6割の地域では、焼死や圧死や放置死や餓死による無数の遺体が、そのままの状態で野ざらしにされることになる。建物の下敷きになりなから焼け死んでいくのも悲惨の極みですが、野ざらしの遺体に囲まれながら息絶えていくのもまた、地獄でしょう」

 現実に起こり得る事態への、想像力を欠いた被害想定がいかに空疎なものか。防災会議の面々は鶏肉の照り焼き弁当でも食しながら猛省すべきである。

(森省歩)

ジャーナリスト、ノンフィクション作家。1961年、北海道生まれ。慶應義塾大学文学部卒。出版社勤務後、1992年に独立。月刊誌や週刊誌を中心に政治、経済、社会など幅広いテーマで記事を発表しているが、2012年の大腸ガン手術後は、医療記事も精力的に手がけている。著書は「田中角栄に消えた闇ガネ」(講談社)、「鳩山由紀夫と鳩山家四代」(中公新書ラクレ)、「ドキュメント自殺」(KKベストセラーズ)など。

カテゴリー: 社会   タグ: , , , ,   この投稿のパーマリンク

SPECIAL

アサ芸チョイス:

    医者のはなしがよくわかる“診察室のツボ”<マイクロスリ―プ>意識はあっても脳は強制終了の状態!?

    338173

    昼間に居眠りをしてしまう─。もしかしたら「マイクロスリープ」かもしれない。これは日中、覚醒している時に数秒間眠ってしまう現象だ。瞬間的な睡眠のため、自身に眠ったという感覚はないが、その瞬間の脳波は覚醒時とは異なり、睡眠に入っている状態である…

    カテゴリー: 社会|タグ: , , , , |

    医者のはなしがよくわかる“診察室のツボ”<紫外線対策>目の角膜にダメージ 白内障の危険も!?

    337752

    日差しにも初夏の気配を感じるこれからの季節は「紫外線」に注意が必要だ。紫外線は4月から強まり、7月にピークを迎える。野外イベントなど外出する機会も増える時期でもあるので、万全の対策を心がけたい。中年以上の男性は「日焼けした肌こそ男らしさの象…

    カテゴリー: 社会|タグ: , , , , , |

    医者のはなしがよくわかる“診察室のツボ”<四十肩・五十肩>吊り革をつかむ時に肩が上がらない‥‥

    337241

    最近、肩が上がらない─。もしかしたら「四十肩・五十肩」かもしれない。これは肩の関節痛である肩関節周囲炎で、肩を高く上げたり水平に保つことが困難になる。40代で発症すれば「四十肩」、50代で発症すれば「五十肩」と年齢によって呼び名が変わるだけ…

    カテゴリー: 社会|タグ: , , |

注目キーワード

人気記事

1
「京都崩壊」の信じがたい現実…外国人観光客専用都市に激変した「不気味な風景」
2
商品価値が落ちたヤクルト・村上宗隆「メジャー計画変更」で大谷翔平と同じ道を
3
山尾志桜里の「公認取り消し」騒動を起こした玉木雄一郎は「榛葉幹事長人気に焦った」って!?
4
土壌ラドン濃度・衛星観測・上空発光…火山噴火と大地震「前兆キャッチ」の新技術がスゴイ!
5
「絶対にやめろ」に大反発!トルシエ元日本代表監督が初めて明かした日本サッカー協会とのバトル