社会

ギャギャギャギャ!ガタン!グワン!闇を引き裂く音が…/二度連れ戻された「脱走ねこ」の物語(8)

「ギャギャギャギャ!」

 突然、どこかで暗闇を閃光が引き裂くような、大きな音がした。ビールを飲みながらテレビを見ていたのだが、椅子から飛び上がりそうになった。

「猫!」

「かかった?」

 驚いたのは、連れ合いのゆっちゃんも同じだ。声を発した時には、玄関に駆け出していた。素早くサンダルを履き、ドアを開ける。台所の出窓の外。音、声の出どころは間違いなく捕獲器だった。クールボーイが入っているのか。鳥肌が立つ。

 バタン、ガタン、「ギャー」「グワン」。阿鼻叫喚である。小動物用捕獲器に近づくと、被せてあったバスタオルを思いっきり引っ張った。

 そこには真っ白な猫がいた。顔の三毛の特徴は、紛れもなくクールボーイだ。クールは僕と目が合って恐れるように、また狭い捕獲器の中でバッタンバッタンと暴れ、飛び上がろうとする。

「コラ、バカ!」

 身震いしながら叫んでいた。喜ぶとか怒るとかとは異なる、言いようのない感激のようなものも…。ゆっちゃんも玄関から顔を出している。

「クー?」

「そう、クーがやっとかかった」

「よかった~」

 捕獲器を持ち上げようとすると、さらにバタバタと動く。

「わかった。いいから大人しくして!」

 玄関に入っていくと、さすがにジュテとガトーの兄たちもビックリした様子で、捕獲器に鼻面をくっつけ、クンクンにおいを嗅ぐと、その尻尾が揺れている。そして、玄関の床に捕獲器を置いて、入り口の扉を上に開けたら、クールは脱兎のごとく走って逃げた。その素早さといったら。普段も人に寄り付かず逃げる猫だから、捕まったら余計である。

「やれやれ、やっと捕まえたね」

「あ~、疲れた」

 夜中の猫探し、玄関での寝ずの番と4日間、寝不足である。

 とりあえず、どこにいるか2階と3階を探すと、3階の本棚の奥に…。クールが人目を避けて逃げ込む時は、いつもそこだった。確認してから、リビングに戻って飲み直し。保護猫のクールを世話してくれたMさんには、真っ先に電話を入れた。

「捕獲器にかかった」

「よかったねぇ」

「捕獲器で3日目」

「上手、上手」

「えっ、そうなの?」

「捕まらないことも多いからね」

「そうなの」と言いながら、ちょっといい気分。

「保護猫だから、見つからなかったら連絡しないといけないしね」

 Mさんも、本当にホッとしている様子だ。

「また逃げないように、きちんと見ていてよ」

「出そうなところはもう一度チェックして、戸締りも気を付けよう」

 クールがいる3階まで上がってみた。

「もう外に出ちゃダメだよ、クーちゃん。みんな心配してたんだから」

 ゆっちゃんは涙目になっている。

 クールは怯えた目をして、後ずさっていたけど。

「どうして、お前はこうなのかな」

 逃げようとするクールが、むしろ不憫に思えた。こうして3匹の猫が揃う、平和な日々が再びやってきた。

 ところが…である。それから5カ月後のこと。ゴールデンウイークが始まろうとしていた、穏やかな日差しに包まれた春の一日の、昼前のことだった。

(峯田淳/コラムニスト)

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