社会

「山口組のキッシンジャー」が体現した哲学! ヤクザの「平和共存」は方便などではなかった

 かつて山口組に「キッシンジャー」と呼ばれた男が存在した。その名を黒澤明という。ヤクザの異名といえば、事件で見せた凶暴性や闇社会で振るう権勢の大きさなど、その由来には常に暴力の影がつきまとう。なのに、なぜ彼は〝ノーベル平和賞〟を受けた米国人になぞらえられたのか。

 黒澤氏の来歴に触れる前に、まずは本家本元を思い出してもらおう。異名の由来はヘンリー・キッシンジャー氏。米国において「最も力を持った国務長官」と称される〝外交のプロ〟だ。

 その最大の功績とされるのは、71年の米中国交樹立だろう。米ソ冷戦が続く最中、ニクソン政権の国務長官としてキッシンジャー氏は、国交がなかった中国の周恩来首相(当時)と秘密交渉を重ね、ニクソン大統領の電撃訪中を実現。国交樹立に至ったのだ。

 その後、ベトナム戦争の終結に至るパリ和平協定締結に向けて奔走し、米軍の完全撤退を現実のものにした。こうしたことが認められて、73年にはノーベル平和賞を受賞している。

 キッシンジャー氏は米国と敵対するソ連をはじめとする共産主義陣営に秘密裡にパイプを築いたことで知られる外交の達人であった。それは、複数の大国が勢力の均衡を保つことで国際平和が保持されるという考えに基づいており、昨年11月に死去する直前まで外交活動への助言を行っていた。その数は半端ではなく、この半世紀で12人の米国大統領を補佐。毛沢東から習近平まで歴代の中国国家主席と面識を持ち、ロシアのプーチン大統領とも親交があったという。

 そんなキッシンジャー氏に、黒澤氏がなぞらえられたのは、山口組の平和外交への貢献があったためだった。79年に「反山口組」の急先鋒だった「関西二十日会」に加盟する組織の首領たちが、三代目山口組・田岡一雄組長を訪ねて、初めての会談が成立。そこから雪解けへと向かった。この世紀の会談実現に奔走したのが、当時は黒澤組組長として山口組直参だった黒澤氏なのだ。

 先頃刊行された山平重樹氏の著書「山口組のキッシンジャーと呼ばれた男 黒澤明 その激動の生涯」(小社刊)では、黒澤氏が奔走する契機となったのが、尾道に本拠を置く初代俠道会と山口組直系の初代豪友会(高知)とのトラブルだったことが記されている。この仲裁を成功させた黒澤氏は、俠道会・森田幸吉会長の信頼を得た。そこから、関西二十日会首脳陣との会談実現へと向かっていく。

「ヤクザの世界で、抗争の仲裁は難題で、命懸けの作業になります。それだけに間に入る親分に実力と実績がなければ不可能で、その点において黒澤氏は『明友会事件』で長期服役を経験するなど実績は十分でした」(ヤクザ事情に詳しいジャーナリスト)

 警察はヤクザが言う「平和共存」は取締りを避けるための方便と見るが、山平氏の著書を読めば、黒澤氏が志向した「平和共存」は決して方便ではないことが明確にわかるだろう。

 そんな黒澤氏だったが、直参としての活動期間は極めて短い。田岡三代目の死去後、山口組は分裂。人脈からして黒澤氏は一和会に行くと見られていたが、選んだのは「ヤクザとしての切腹」、そう引退だったのだ。その真相を含め、引退後の黒澤氏の実像までを山平氏は活写。持ち前の交渉能力を生かしてフィリピン反政府ゲリラによる「日本人カメラマン人質事件」を解決に導くなど、アウトローとしては稀有な活躍をしていたことが初めて明かされている。

 黒澤氏はキッシンジャー氏よりも先に鬼籍に入ったが、現在も抗争の絶えないヤクザ社会を草葉の陰でどう見ているのだろうか。

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