社会

森健「新聞をななめに読むとわかること」 ー仏テロ事件の本質は表現の“自由”の問題であるー

20150205w

 イスラム過激派が世界に匕首を突きつけている。

 とりわけ今月7日にパリで起きた仏紙「シャルリー・エブド」テロ事件は世界を揺るがせた。あの事件はフランスが舞台だったが、日本も無縁ではなかった。なぜなら、あの事件の本質は「表現の自由」に関わる問題だったからだ。

 産経によれば、もともとテロ犯人の兄弟に影響を与えたのは、11年に死亡した米国出身のイスラム教説教師だったとされる。生前、説教師がジハードを訴えた映像がネットで拡散。その映像に兄弟も触れていたとされる。

 ネットと紙の差こそあれ、メディアがきっかけとなり、暴力がメディアに向かった構図と言える。

 襲撃されたシャルリー側は事件後、表現の自由を盾に対抗した。ムハンマドを風刺した表紙の同紙は、通常3万部のところ、700万部まで増刷して発行された。記念買いまで生み出す騒動になっていた。

 この事態に、いくつかの地域ではイスラム教の信徒が不満や憤りを表明し、暴動まで起きた地域もある。

 この事件が悩ましいのは問題の根っこが単なる暴力だけでなく、表現の自由に根ざしているためだ。

 兄弟はシャルリー紙がムハンマドやムスリムをバカにしたという理由で憤り、犯行に及んでいた。このテロに対抗し、シャルリー紙はまたきつい風刺でお返しした。その結果、ムスリム社会でまた反発が起きた。戦争では恒例の、仕返しのらせん階段が敷かれつつあるのだ。

 確かに同紙の風刺はきついものが少なくない。毎日によれば、同紙は日本もネタにしている。東京五輪決定後、福島原発事故で揺れた日本をからかい、腕と足が3本ある力士を描き、相撲も新しい競技種目になったと皮肉った。描かれる当事者にとっては、憤慨しても不思議ではない表現をしてきたのが同紙なのだ。

 フランス全土で370万人が参加したという史上最大の追悼デモ行進があった翌12日、最初にシャルリー側への異論を記したのは、読売だった。

 過度な自由貿易への懸念で知られる仏人口学者のエマニュエル・トッドは読売のインタビューに応じ、「ムハンマドやイエスを愚弄し続ける『シャルリー・エブド』のあり方は、不信の時代では、有効ではないと思う」と語った。

 日がたつにつれて、こうした冷静な声が広がってきた。16日にはローマ法王も「表現の自由には限界がある」と一定の配慮を求める記事も出た(朝日・AP)。フランス市民も一枚岩だったわけではない。仏日曜紙の世論調査ではムハンマドの風刺画を掲載することに42%の市民が反対していると報じた(時事・AFP)。

 こうした傾向は「表現の自由」原理主義者にとっては、信じがたい動きなのかもしれない。だが、歴史を振り返ると、表現の自由にはもともと制限があった。近代における自由は、フランス革命時のフランス人権宣言(1789年)に確立されたが、この宣言の中で自由は第4条にこう規定されている。

〈自由は、他者を害することのない、すべてをなしうることに存する〉

「他者を害さない」という条件が自由にはあるのだ。

 ただし、無害を重視するあまり、皮肉や風刺を言えないような社会もつらい。風刺を許容し合える関係作りが必要ということだろうが、国境や宗教を越えて、その関係性を構築できるだろうか。それもまた表現の問題である。

◆プロフィール 森健(もり・けん) 68年生まれ。各誌でルポを中心に執筆。企画・取材・構成にあたった「つなみ 被災地のこども80人の作文集」「『つなみ』の子どもたち」で、被災地の子供たちとともに、第43回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。

カテゴリー: 社会   タグ: , , ,   この投稿のパーマリンク

SPECIAL

アサ芸チョイス:

    デキる既婚者は使ってる「Cuddle(カドル)-既婚者専用マッチングアプリ」で異性の相談相手をつくるワザ

    Sponsored

    30〜40代、既婚。会社でも肩書が付き、責任のある仕事を担うようになった。周囲からは「落ち着いた」なんて言われる年頃だが、順調に見える既婚者ほど、仕事のプレッシャーや人間関係のストレスを感じながら、発散の場がないまま毎日を過ごしてはいないだ…

    カテゴリー: 特集|タグ: , |

    自分だけの特別な1枚が撮れる都電荒川線の「マニアしか知らない」撮影ポイント

    「東京さくらトラム」の愛称で親しまれる都電荒川線はレトロな雰囲気を持ち、映えると評判の被写体だ。沿線にバラが咲く荒川遊園地前停留所や三ノ輪橋、町屋駅前は人気の撮影スポット。バラと車両をからめて撮るのが定番だ。他にも撮影地点は多いが、その中で…

    カテゴリー: 社会|タグ: , , |

    テレビ業界人が必ず見ているテレビ番組「次のブレイクタレント」「誰が最も面白いか」がわかる

    「業界視聴率」という言葉を、一度は聞いたことがあるはずだ。その名の通り、テレビ業界関係者が多く見ている割合を差すのだが、具体的なパーセンテージなどが算出されているわけではない。いずれにしても、どれだけ業界人が注目して見ているかを示す言葉だ。…

    カテゴリー: 芸能|タグ: , , |

注目キーワード

人気記事

1
【オフの目玉】巨人・大城卓三FA権取得で「出ていく可能性」と「欲しい4球団」
2
もし今季の中日ドランゴンズに「大谷翔平」がいたら…ChatGPTが出した「順位」と「打撃成績」
3
記者をドン引きさせっぱなしの阪神・岡田彰布監督が本当に怒る相手は「身内」だった
4
アナウンサーの人事異動がニュースになる裏事情「腹いせに自分でリーク」「承認欲求を満たす」ケースも
5
「ZIP!」も「ウイニング競馬」も長期欠席…ジャングルポケット・斉藤慎二に「不穏な理由」