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「角田夏実VSバブードルジ・バーサンフー」パリ五輪 柔道女子48キロ級決勝・2024年7月27日
「ヘビや軟体動物みたいで不気味」
言葉の主は2021年東京五輪柔道女子52キロ級女王の阿部詩。24年パリ五輪柔道女子48キロ級で頂点に立った角田夏実の柔道スタイルを評してのものだ。
相手としっかり組み、立ち技での投げが基本とされる日本柔道にあって、巴投げからの腕ひしぎ十字固めを必勝パターンとする角田の柔道は異色である。
からみついたら離れない。振りほどこうとすると、長い手足が巻きついてくる。「ヘビや軟体動物みたい」とは言い得て妙だ。
31歳で出場を果たした初めての五輪。角田は5試合で、技のポイントをひとつも奪われずに金メダルに輝いた。
1回戦 ナターシャ・フェレイラ(ブラジル)46秒 一本勝ち
2回戦 ジェロネイ・ホワイトボーイ(南アフリカ) 1分9秒 一本勝ち
準々決勝 シリヌ・ブクリ(フランス) 1分0秒 一本勝ち
準決勝 タラ・バブルファス(スウェーデン) 6分55秒(延長ゴールデンスコア) 反則勝ち
決勝 バブードルジ・バーサンフー(モンゴル)優勢勝ち
7月27日(現地時間)、シャンドマルスアリーナ。決勝の相手バブードルジは、5月にUAE・アブダビで行われた世界選手権の優勝者。この大会に角田は出場していない。
角田の巴投げを警戒するバブードルジは、用心深く間合いをはかる。しかし、くるとわかっていても防げないのが角田の巴投げだ。
手を替え品を替え、しつこく攻める角田は、残り1分6秒で、伝家の宝刀を抜く。バブードルジの体が宙に浮き、技ありを奪った。
大会前、本人に巴投げの極意について訊ねると、次のように答えた。
「私は足の指が長いので、相手を蹴り上げる時に、柔道衣を足の指で摑める。ただし、試合中に何度もかかる技ではないので、何度もトライする。投げ方のレパートリーの多さは、誰にも負けないと思っています」
角田の巴投げは、他の選手のそれとは違い、長い足と吸盤のように吸いつく指を生かして相手を空中に吊るすのだ。
たとえるなら、幼児をあやす時の〝高い、高い〞だ。おとなが仰向けの体勢になり、幼児の腹を足裏で支えながら自在にコントロールする。あれに似ている。
勝利を、ほぼ確実にしながらも、角田は攻め続ける。残り20秒で巴投げを放ち、空中で体をひねった相手に足をからませ、腕ひしぎ十字固めを狙って執拗に左腕を探る。
そのプロセスには一分の妥協もない。躊躇すると、自分がやられる。
––相手の腕を折る時は、どんな音がするのか?
私の質問に、角田はこう答えた。
「音というよりも、ヒジの関節がガクンと外れるんです。たとえるなら、昔あった折り畳み式の携帯電話の〝逆パカ(逆の方向に携帯電話を折って壊すこと)〞の感じ」
逆パカとは恐れ入った。
試合に戻る。もがけばもがくほど深みにはまり、逃げ場を失うバブードルジ。その図はヘビににらまれたカエルである。一本こそ奪えなかったが、圧倒的な実力差を示して、角田は五輪を制した。
それは日本の夏季五輪500個目のメダルとなる、記念すべき金メダルでもあった。
二宮清純(にのみや・せいじゅん)1960年、愛媛県生まれ。フリーのスポーツジャーナリストとしてオリンピック、サッカーW杯、メジャーリーグ、ボクシングなど国内外で幅広い取材活動を展開。最新刊に「森保一の決める技法」。
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