政治
Posted on 2024年11月30日 09:55

“全世界からタブー視される”国際ニュースに潜む怪人列伝〈トランプ政権「トンデモ閣僚」〉

2024年11月30日 09:55

 次期トランプ政権の閣僚人事が注目されている。前々回、「異彩を放つ応援団」と紹介したロバート・ケネディ・ジュニアは保健福祉長官に、イーロン・マスクは新設される政府効率化組織トップに就任する。ケネディ・ジュニアは「すべてが有害」との常軌を逸した反ワクチン陰謀論者で、今後の米国保健行政の大混乱が予想される。億万長者のマスクは、自らのビジネスに不利となる「規制」に強く反対。これからは自分の都合の良いように政府組織全体に介入するものと見られる。

 他にも次期閣僚には、問題人物が目白押しだ。たとえば、トランプは自分に批判的な軍高官の一掃を計画していると報じられているが、そのため国防長官に意外な人物を指名した。保守派のFOXニュースの元キャスターであるピート・ヘグセスだ。現在44歳のヘグセスは元キャスターとはいえ、政界でも官界でもまったく実績のない無名の人物。発表直後、下院軍事委員会の民主党トップは「正直言って、20分前までヘグセスという人物を知らなかった」と語っている。

 ヘグセスはもともと州兵だが、14年から並行してFOXニュースのコメンテーター、キャスターを務めた。だが、21年1月に州兵としてバイデン大統領就任式の警備任務に就く予定が、直前に解任された。彼が白人至上主義者を表すタトゥーをしていたことが問題視されたからだ。

 その頃から彼は自分を追放した軍上層部を激しく批判するようになる。もともとトランプ支持者だったが、そんな言論活動が評価されて両者は急接近。かくして実績ゼロの白人至上主義者が国防総省トップに指名されるに至ったわけだ。

 ヘグセスはかつて性的暴行で女性に訴えられたこともある。当時、金銭で和解が成立して罪にはなっていないが、国防長官は大統領が職務不能になった際の継承順位で第6位の超重要ポスト。およそ適任とは言えない人物だ。

 しかし、この地位に抜擢されるからには、過去にトランプに批判的な言動のあった軍高官たち、さらにはそんな軍高官たちによって昇進した幹部などを、報復措置で一掃する役目に邁進することは明らかだ。そんなヘグセス人事で、米軍の軍事組織としての機能は、著しく劣化する可能性が高い。プーチンや習近平にとっては大歓迎だろう。

 他にもプーチンが大喜びするトンデモな人事がある。トゥルシー・ギャバードの国家情報長官への抜擢だ。この役職は、米政府・軍などの各情報機関からの報告を集約し、大統領に伝える重要ポストである。ところが、元下院議員のギャバードは、ロシアを全面的に支持してきた人物。ロシアが発信するプロパガンダを常に代弁してきた。情報関係者の間では、プーチン政権の「無意識のエージェント」(本人が気づかないうちに取り込まれた人物)と見られている。そんな人物に米国の情報機関のすべての情報が渡るということは、ロシアに筒抜けになる危険性すらある。

 現在43歳のギャバードは、ハワイ出身でサーフィンが得意。大学卒業後、21歳で全米史上最年少の州議会議員に。2年後、陸軍州兵となってイラクの戦場で戦う。帰国後、29歳で市議会議員となり、30歳で民主党所属の下院議員となった。軍人出身で現在も予備役(少佐)なので、下院の軍事委員会や外交委員会で活動したが、徐々に「ロシアは正しい」というプロパガンダを代弁するようになり、米政府の安全保障政策に強く反対する陰謀論的主張を行うように。特に、民主化要求する自国民を大虐殺していたシリアのアサド独裁政権への支持を公言。17年にはシリアを訪問してアサドと会見している。

 20年に民主党を離党。翌年の選挙には出馬せず、その後は政治評論活動に。22年のロシアのウクライナ侵攻では一貫してロシア支持の論陣を張った。反バイデン言論でトランプと急接近し、今年の大統領選では熱烈な支持をした。選挙直前に共和党に入党し、完全にトランプ側近の立場を得た。同じ陰謀論者のケネディ・ジュニアの反ワクチンを熱烈支持。さらにハワイ出身の親ロシア派として日本の防衛力強化にも強く反対していて、我が国の安全保障にとっても不安要素になりそうだ。

 他にも問題人事がある。トランプは自分を訴追しようとした司法関係者への報復を示唆しているが、そのために司法長官には側近のマット・ゲイツを指名した。42歳の下院議員だが、乱暴な言動が有名。未成年との関係含む性的違法行為や薬物疑惑で議会内での追及も受けている人物だ。

 また、CIA長官に指名されたジョン・ラトクリフもいる。第1期トランプ政権で国家情報長官を務めたため、情報活動に詳しいイメージがあるが、情報にも安全保障にもまったくの素人。単にトランプ側近というだけの人物で、前回の国家情報長官ポストも、当時捜査されていたトランプのロシア癒着問題(ロシアゲート)を火消しするためだけの人事だった。

 トランプは側近の女性政治家・スタッフたちを閣僚・高官に抜擢する例も目立つ。選挙参謀のスーザン・ワイルズ(67)を首席補佐官に、側近のサウスダコタ州知事・クリスティ・ノーム(52)を国土安全保障長官に、同じく側近のエリス・ステファニク下院議員(40)を国連大使に、トランプ事務所報道担当のキャロライン・レビット(27)を史上最年少の大統領報道官に‥‥。

 美形が多いのが気になるが、いずれもトランプお気に入りの女性たちだ。来年1月から始動するトランプ政権のトンデモ度は、米国史上でも突出したものになるだろう。

黒井文太郎(くろい・ぶんたろう)1963年福島県生まれ。大学卒業後、講談社、月刊「軍事研究」特約記者、「ワールドインテリジェンス」編集長を経て軍事ジャーナリストに。近著は「工作・謀略の国際政治」(ワニブックス)

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