名越 アメリカのことを「プレデター(捕食者)」と表現されていますが、今後、日本にとってアメリカは潜在敵国になり得るとお考えですか。
藤原 モンスターという意味合いで使いました。アメリカは領土を拡大し、直接支配することをヤメた国で、他国にも植民地支配をヤメさせてきた。他方では民主主義と資本主義を共有する世界のリーダーとして絶大な権力を手にしました。今それが逆転している。従来の前提が変わったことは確かです。
名越 パナマ運河やグリーンランドも支配しようとしていますし、ガザもアメリカのリゾート地にすると言っています。本気なのですか。
藤原 ガザには少数ながらパレスチナ人がいます。どうやら、彼らをヨルダンやエジプトに強制移動させるらしい。トランプ大統領のやっていることに対しては、こちらがマジメに議論するのがバカバカしくなります。
名越 先日、トランプ大統領が中東を訪問しましたけど、成果として強調するのは、アメリカへいくらの投資をするのかというビジネスの話ばかりでした。
藤原 外交的にはサウジアラビアやカタールと手を結んで、イランの核開発に圧力をかけているものの、本当の目的は、どれだけの利権をアメリカに寄越すのか。それも、ドバイに建設が予定されるトランプタワーなど、自分に対してどれだけ出すのか。極めて露骨です。
名越 ロシアのウクライナ侵攻は、今年中に大きな山場を迎えそうでしょうか。
藤原 和平が実現してほしいですけど、容易ではないでしょう。その理由は、ロシアもウクライナもどちらかが圧倒的に優勢ではないからです。しかも、両国とも膨大な戦死者を出してしまっただけに引くに引けません。特にプーチン大統領は、侵攻前より多くの領土を取れなければ負けになります。もちろん、プーチン政権も崩壊するでしょうから、安易な妥協はできないのです。
名越 アメリカが支援しなくなれば、ウクライナは音を上げると考えているようですが─。
藤原 要するにトランプ大統領は戦争の素人なのです。NATO(北大西洋条約機構)諸国もウクライナを防波堤にして自分たちを守っている。簡単に手を引くわけにはいきません。NATOも一枚岩ではないから、いろいろ動きは出てくるでしょうけど、戦争終結が近いという印象はありません。
名越 この戦争は“プーチンの戦争”で、彼が死なないと終わらないかもしれません。ただし、長寿の家系らしいですが─。
藤原 だとすれば、まだ終わりそうにありませんね。
ゲスト:藤原帰一(ふじわら・きいち)1956年生まれ。順天堂大学国際教養学研究科特任教授・東京大学名誉教授・同大学未来ビジョン研究センター客員教授。専門は国際政治・比較政治・東南アジア政治。東京大学法学部卒業。同大学大学院博士課程単位取得中退。東京大学教授、ジョンズ・ホプキンス大学国際高等研究院客員教授、東京大学未来ビジョン研究センター長などを歴任。「平和のリアリズム」で第26回石橋湛山賞受賞。
聞き手:名越健郎(なごし・けんろう)拓殖大学特任教授。1953年岡山県生まれ。東京外国語大学ロシア語科卒業。時事通信社に入社。モスクワ支局長、ワシントン支局長、外信部長などを経て退職。拓殖大学海外事情研究所教授を経て現職。ロシア政治ウオッチャーとして活躍する。著書に「独裁者プーチン」(文春新書)など。