「国家衰退を招いた 日本外交の闇」山上信吾/1870円・徳間書店
トランプ関税への対応で迷走する石破外交。前駐豪大使・山上信吾氏が新刊「国家衰退を招いた 日本外交の闇」で、米・中・露への弱腰ぶりを徹底糾弾。これまで語られることのなかった外交の舞台裏を暴く!!
名越 山上さんは外交評論家として大活躍で、出された本もベストセラーになっています。昔は外交官OBが書いた本は自分の自慢話が多かったですが、本書は切れ味がよく、一気に読んでしまいました。
山上 ありがとうございます。
名越 本書の前半は対アメリカ、対中国、対ロシアの問題点に言及して、山上さんの考えが熱く語られています。
山上 3大国との関係を前面に据え、外務省の内情について、ここまで率直に説明した本はないと自負しています。
名越 外交ジャーナリストの手嶋龍一さんとの対談も、日本のインテリジェンスのことがよくわかり、とても刺激的でした。
山上 歴史観や国家観を異にする手嶋さんと本音で語って、見解の違いも明らかになりました。読者の方には両方の立場を知っていただき、ご判断いただければいいと思います。
名越 まずは日本外交の一番の問題を教えてください。
山上 大東亜戦争の話になりますが、意図したことではないにせよ、結果的に日本は米中露の3つの大国を敵として戦ってしまいました。アメリカが日本を戦争に追い込んでいった面があることは間違いありませんが、中国は漁夫の利を占め、旧ソ連は二枚舌でした。三国には日本人には信じられない狡猾さがあります。これは、近現代の日本外交の大きな教訓だと思っています。
名越 今、まさに日本は米・中・露に振り回されています。
山上 はい。トランプ大統領に対しては、しっかり物を申せない。中国の力が強くなると、それに平伏せんとばかりに媚中に走る。ロシアには領土問題を解決して平和条約締結と、相手を見極めずに言い続ける。戦後80年経った今でも、日本の能天気ぶり、究極のお人よしぶりは、あまり変わってないんじゃないでしょうか。もう、こんな外交は卒業しなければいけません!
名越 本書で「トランプの関税引き上げ問題は予測不能で不安定だ」と書かれていて、それが今、ピタリと当たりました。日本の対米外交はトランプ政権の衝撃を読めず、危機感がなかった気がします。
山上 せっかく2月に日米首脳会談を行ったのに、石破総理が関税の問題に触れなかったことは、まことに残念です。とにかく、トランプを怒らせたくなかったとしか思えません。関税の問題は一過性の問題ではありません。第1期トランプ政権でも、鉄鋼製品とアルミニウム製品の関税を引き上げ、バイデンも撤回しなかった。日本企業の中には、この4年間を耐え忍べばという空気がありますが、そんな保証はどこにもありません。
ゲスト:山上信吾(やまがみ・しんご)前駐オーストラリア特命全権大使。1961年東京都生まれ。東京大学法学部卒業後、84年外務省入省。コロンビア大学大学院留学を経て、2001年ジュネーブ国際機関日本政府代表部参事官、17年国際情報統括官、経済局長などを歴任。20年駐豪大使に就任。23年末に退官。同志社大学特別客員教授等を務めつつ、外交評論家として活動中。
聞き手:名越健郎(なごし・けんろう)拓殖大学特任教授。1953年岡山県生まれ。東京外国語大学ロシア語科卒業。時事通信社に入社。モスクワ支局長、ワシントン支局長、外信部長などを経て退職。拓殖大学海外事情研究所教授を経て現職。ロシア政治ウオッチャーとして活躍する。著書に「独裁者プーチン」(文春新書)など。