名越 「Asagei Biz」のウェブ連載を抜粋した第4章「弱腰外務省の実態」では、「不倫の外務」と呼ばれる実態も書かれています。僕も海外勤務中、昼間の外交活動はおとなしいけれど、夜の街では元気になる「上半身アジア系」、「下半身ラテン系」という日本の外交官をたくさん見ました(笑)。
山上 残念ながら、下半身にだらしない話は枚挙にいとまがありません。だから、在外公館は“おバカ天国”とみられてしまうのです。
名越 外務省では高級ホテルのスイートルームで「パジャマ・パーティー」をするのが一時流行ったと聞きましたが─。
山上 よくご存知ですね。実は私も若い頃に誘われて1回だけ出たことがあります。ホテルのスイートルームにワインを持ち寄って、CA(客室乗務員)の女性を招待して、幹部がバスローブを着てはしゃいでいるんです。「なんだこいつらは!?」とあ然としました。
名越 同じ汗を流すんだったら、外交の場で国益のために汗を流してほしいですね。21年に梨田和也駐タイ大使が、バンコクのナイトクラブを訪れてコロナに感染し、メディアでバッシングされていました。
山上 彼は僕の同期です。
名越 外務省詰めの女性記者の間では、梨田氏は「ナッシー」と呼ばれ、飲み会によく呼ばれたそうです(笑)。
山上 彼は退官後、タイの財閥の顧問になったそうです。日本企業の顧問ならわかりますけど、バンコクの日本商工会の人は自分たちの味方だと思ったのに、なんで? と不信感を抱いたと聞かされました。
名越 確かにあまり聞かないです。
山上 中国大使だった横井裕(16~20年)は、よりによって中国の法律事務所の特別顧問になっています。退官した外交官の7割から8割は職がないので、こういう話に飛びついてしまう。公務員倫理規定で役所の斡旋を禁じているため、如実に退官後は個人差が出ます。
名越 かつて大使の三種の神器は「ゴルフ・カラオケ・麻雀」と言われていました。
山上 在外こそが外交官の主戦場なのですが、なぜか日本人とばかり群れる。外に出ない外交官が本当に増えています。外交官じゃなくて“内交官”です。
名越 大谷翔平や安倍昭恵さんを駐米大使にしたらいいかもしれませんね。
山上 3月に大谷選手が主催したドジャースの夕食会では、マグロの解体ショーをやり、ウニを食べたことがなかったフリーマン選手も「おいしい」と言ったらしいです。これがまさに外交で、本来の仕事です。しかし、最近は「自分たちは黒子たるべき」みたいな意識が強くて、その結果、本来やるべきことができていない。これが今の外務省の最大の問題です。
ゲスト:山上信吾(やまがみ・しんご)前駐オーストラリア特命全権大使。1961年東京都生まれ。東京大学法学部卒業後、84年外務省入省。コロンビア大学大学院留学を経て、2001年ジュネーブ国際機関日本政府代表部参事官、17年国際情報統括官、経済局長などを歴任。20年駐豪大使に就任。23年末に退官。同志社大学特別客員教授等を務めつつ、外交評論家として活動中。
聞き手:名越健郎(なごし・けんろう)拓殖大学特任教授。1953年岡山県生まれ。東京外国語大学ロシア語科卒業。時事通信社に入社。モスクワ支局長、ワシントン支局長、外信部長などを経て退職。拓殖大学海外事情研究所教授を経て現職。ロシア政治ウオッチャーとして活躍する。著書に「独裁者プーチン」(文春新書)など。