1984年に、画期的なアイドルグループが登場した。4人組女性のアイドルグループ「セイントフォー」だ。歌うだけでなく、女性アイドルとしては初めてバク転、バク宙などアクロバティックな要素を取り入れ、世間を驚かせた。
同年、劇場映画「ザ・オーディション」にも出演するなど、セイントフォーを売り出すために費やされた予算は30億円とも40億円とも言われ、そのケタ外れな規模が話題となった。
そうした効果もあって、彼女たちのステージは大いに盛り上がったものの、予期せぬトラブルが起きる。所属事務所とレコード会社の間で、契約上のトラブルが発生したのだ。
所属レコード会社「リバスター音産」が彼女たちを引き抜こうとする動きがあったとして、事務所側が猛反発。この影響で新曲を発表できない状況が続き、2年後に本人たちの意思で解散することになったのだ。彼女たちに全く落ち度はなかっただけに、解散のニュースはファンを大いに悲しませた。
そんなセイントフォーのリーダーだった岩間沙織に、2003年にインタビューしたことがある。
メディアは「40億円アイドルグループ」などと報じていたが、当時を振り返った岩間は、
「私たちの給料は月5万円。事務所の社長の家に4人で住み込む、合宿みたいな生活でしたね。仕事と歌とアクションのトレーニングの繰り返し。遊ぶ時間とか全くありませんでしたね。30億、40億とか言われても、そんな実感は全くなかったです」
睡眠時間を削って連日、アクションや歌の練習に励んでいた彼女たちだが、その収入はアルバイト学生並みだったというわけだ。それがあまりにも激しいアクションゆえに、大事故になりかけたことを筆者に明かしてくれた。
それはある野外ステージでコンサートを行った時のことだ。
「トランポリンを使って宙返りをしてステージに降りる、というアクションを要求されたんですが、着地に失敗して側頭部を床に叩きつけて気絶したんです」
事故直後には「岩間が死んだ!」と会場は大騒ぎになったという。幸い命に別状はなかったのだが、
「その時初めて、なんでこんなことやってるんだろう…ちょっと空しい気持ちになりましたね」
当時の心境をそう語った岩間。現在ならば、こんな無謀な要求をしたら大問題になっているだろう。
事務所とレコード会社のトラブルが影響して1987年に解散するまで、メンバーにはケガや生傷が絶えなかったという。ただし、グループはアイドルというよりも体育会系のノリもあってか、アイドルグループとしては珍しいほど、
「メンバー同士は絆が深く、最後まで仲が良かった」
解散はしたものの、伝説的なアイドルとしてコアなファンが多く、2018年から活動を再開した。セイントフォーにはそれほどのインパクトがあったのだ。もし今の時代に登場していたならば、間違いなく大ブレイクしていただろう。40年、時代の先を行っていたグループだったと思うのである。
(升田幸一)