政治

ホントーク〈藤原帰一×名越健郎〉(1)忠誠心で固めたトランプ政権

「世界の炎上 戦争・独裁・帝国」藤原帰一/990円・朝日新書

 トランプ大統領の関税政策で世界は大混乱。高関税を課される日本の落としどころはどこにあるのか。アメリカを「モンスター」と指摘する国際政治学者の藤原帰一氏が、トランプの真意と日本の取るべき選択を語り尽くす。

名越 本書は2020年から25年の世界の出来事を要領よく解説しています。コロナやウクライナ侵攻、そしてイスラエルとパレスチナの紛争など、まさにタイトルどおり、炎上している期間ですね。

藤原 はい。この6年間は混乱の時代と言えます。

名越 新聞の連載をまとめたものだそうですが、原稿の順番が25年の出来事からスタートするスタイルが斬新でした。

藤原 ありがとうございます。編集の方からご提案をいただいた時は驚きましたが、私の好きな映画「サンセット大通り」(50年)と重なるんです。主人公の男がプールで死体となって発見される場面から始まり、事件の発端に戻る。今起こっていることから過去にさかのぼる構成になっています。

名越 映画好きな藤原さんだからこそのスタイルですね。さて、トランプ大統領が60カ国以上の貿易相手国に対する「関税引き上げ」を発表して世界が大炎上しています。当初「中国には145%の関税を課す」と言いましたが、ここにきて凍結、撤廃を言い始めた。日本も強気に出ていいのではないでしょうか。

藤原 私もそうあればいいと願いますが、残念ながら日本は無理です。トランプ大統領は「圧力をかけたから中国が折れた」と言っていますけど、中国に高関税をかけて貿易が縮小すれば、アメリカは大きな痛手を受けるから矛を収めたわけです。

名越 日本には、中国のような力はない、と。

藤原 はい。トランプ大統領は、つきあいが深い相手ほど強い要求を突きつけてきます。日米安保で守ってもらっている日本は、言うことを聞くしかないんです。

名越 日本の経済人の中には「4年経てば政権が変わって元のアメリカに戻る。関税政策も含め、それまでの辛抱だ」という意見もあるようです。

藤原 それは第1期と第2期政権では、性格が違うことを理解していないのでしょう。第1期は政治の素人でしたけど、周囲の大人がまともな政治をさせようとした。しかし、その結果、彼に従わない人間は次々と追い出され、政権内の対立が繰り返されたため、何もできなかった。ところが、第2期政権は彼に忠誠を誓う人間しかいません。大統領が白と言えば黒も白になる。就任からわずか100日程度で、世界には破滅的変化が起きました。残りの3年半は、さらに大きなインパクトが予想されるだけに、簡単に元に戻るとは考えられませんね。

名越 ハネムーン期間(大統領就任から100日)も終わり、反トランプの動きも起こるのではないですか。

藤原 反対意見を持つ人は多いものの、大学で彼に反対すれば投獄され、留学生は国外退去を命じられる。声を上げるリスクが高くなりました。

ゲスト:藤原帰一(ふじわら・きいち)1956年生まれ。順天堂大学国際教養学研究科特任教授・東京大学名誉教授・同大学未来ビジョン研究センター客員教授。専門は国際政治・比較政治・東南アジア政治。東京大学法学部卒業。同大学大学院博士課程単位取得中退。東京大学教授、ジョンズ・ホプキンス大学国際高等研究院客員教授、東京大学未来ビジョン研究センター長などを歴任。「平和のリアリズム」で第26回石橋湛山賞受賞。

聞き手:名越健郎(なごし・けんろう)拓殖大学特任教授。1953年岡山県生まれ。東京外国語大学ロシア語科卒業。時事通信社に入社。モスクワ支局長、ワシントン支局長、外信部長などを経て退職。拓殖大学海外事情研究所教授を経て現職。ロシア政治ウオッチャーとして活躍する。著書に「独裁者プーチン」(文春新書)など。

カテゴリー: 政治   タグ: , , , ,   この投稿のパーマリンク

SPECIAL

アサ芸チョイス:

    医者のはなしがよくわかる“診察室のツボ”<マイクロスリ―プ>意識はあっても脳は強制終了の状態!?

    338173

    昼間に居眠りをしてしまう─。もしかしたら「マイクロスリープ」かもしれない。これは日中、覚醒している時に数秒間眠ってしまう現象だ。瞬間的な睡眠のため、自身に眠ったという感覚はないが、その瞬間の脳波は覚醒時とは異なり、睡眠に入っている状態である…

    カテゴリー: 社会|タグ: , , , , |

    医者のはなしがよくわかる“診察室のツボ”<紫外線対策>目の角膜にダメージ 白内障の危険も!?

    337752

    日差しにも初夏の気配を感じるこれからの季節は「紫外線」に注意が必要だ。紫外線は4月から強まり、7月にピークを迎える。野外イベントなど外出する機会も増える時期でもあるので、万全の対策を心がけたい。中年以上の男性は「日焼けした肌こそ男らしさの象…

    カテゴリー: 社会|タグ: , , , , , |

    医者のはなしがよくわかる“診察室のツボ”<四十肩・五十肩>吊り革をつかむ時に肩が上がらない‥‥

    337241

    最近、肩が上がらない─。もしかしたら「四十肩・五十肩」かもしれない。これは肩の関節痛である肩関節周囲炎で、肩を高く上げたり水平に保つことが困難になる。40代で発症すれば「四十肩」、50代で発症すれば「五十肩」と年齢によって呼び名が変わるだけ…

    カテゴリー: 社会|タグ: , , |

注目キーワード

人気記事

1
新横綱・大の里の付け人に逸材発見「弓取り力士は出世できない」説をひっくり返す
2
ロッテ・吉井理人監督「途中休養一直線」で待望論は「全国区の大物監督」
3
悲劇のアイドル「セイントフォー」リーダーが明かす野外ステージ事件「岩間が死んだ!」
4
巨人⇔ソフトバンク「大型トレード1カ月」の通信簿…リチャードは「とにかくバットに当たらない」
5
中国・習近平「脳梗塞で左半身マヒ」極秘情報とマイボトルで持ち歩く「薬」