スポーツ

二宮清純の「“平成・令和”スポーツ名勝負」〈巨人を救った“球界のキムタク”〉

巨人 VS ヤクルト」セ・リーグ公式戦・2009年9月4日

「オマエが雑草やったら、オレは何やねん。もう岩にへばりついたコケみたいなもんやないか」

 言葉の主は、今から14年前、くも膜下出血により37歳の若さで世を去った〝球界のキムタク〞こと木村拓也である。

 オマエとは、のちに大リーガーとなる上原浩治。1999年に逆指名で巨人に入団した彼は、自らのことを「雑草」と称していた。

 キムタクが広島から巨人に移籍したのが06年。ドラフト外入団から這い上がり、レギュラー争いをしていた木村の目には上原の存在は「エリート」と映ったはずだ。

「オマエは雑草ちゃうねん。年俸だって、オレたちとは違うんやから」

 当初、キムタクは巨人移籍に乗り気ではなかった。

「ちょっと待ってくださいよ、巨人かよって。僕は歳も歳だし、もう1年も棒に振ることはできない。選手層の厚い巨人で生き残るには、どうすればいいか。首脳陣に認められるには、代走でも代打でも守備要員でも、何でもやるしかない。僕は雑草以下の存在ですから」

 そのキムタクがコケの執念を発揮し、監督の原辰徳を喜ばせたのが2009年9月4日、東京ドームでのヤクルト戦だ。

 優勝マジック20で迎えたこの試合、アクシデントは3対3の延長11回裏に起きた。巨人3人目のキャッチャー加藤健が頭部に死球を受け、退場を余儀なくされてしまったのだ。

 スタメンでマスクを被った鶴岡一成、一塁で先発した正捕手の阿部慎之助ともに既にベンチに退いていた。

 さて、この非常時に誰がマスクを被るのか。

「オレしかいないじゃん」

 ベンチ裏で、そうつぶやいたのが、10回表から二塁を守っていたキムタクだ。

 キムタクがマスクを被っていたのは高校(宮崎南高)時代である。プロでは広島時代の99年7月6日の横浜戦が最後。10年もキャッチャーをやっていなかった選手に〝扇の要〞が務まるのか。しかも、1点もやれない緊迫の場面である。

「セカンドの木村拓也が、キャッチャー」

 場内アナウンスが流れると、ドームが大きなどよめきに包まれた。

 ピッチャーも急造捕手だからと言って、手加減することはできない。12回表、この回からマウンドに上がった豊田清は得意のフォークボールをびしびし投げ込んできた。キムタクが落差のあるフォークボールをミットに収めるとドームが沸いた。

 一死後、左の青木宣親のところで、原は左腕の藤田宗一をリリーフに送った。最後は内角のスライダーで三振に切ってとった。

 かつて広島で同僚だったバッテリーコーチの西山秀二も驚いた。

「あそこで藤田にインコースのスライダーを投げさせるとは‥‥」

 藤田の後は快速セットアッパーの野間口貴彦。松元ユウイチを内角のストレートで三振に切って取った。無事、任務完了。

 ベンチの前では原が待っていた。キムタクの肩をバンバン叩き、拍手で労をねぎらった。

 結局この試合、3対3の引き分けに終わったが、巨人はマジックナンバーをひとつ減らし、優勝に一歩近付いた。

「困った時の拓也頼み」

 試合後の原の一言は、バイプレーヤーに対する最高の誉め言葉だった。

二宮清純(にのみや・せいじゅん)1960年、愛媛県生まれ。フリーのスポーツジャーナリストとしてオリンピック、サッカーW杯、メジャーリーグ、ボクシングなど国内外で幅広い取材活動を展開。最新刊に「森保一の決める技法」。

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