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しかしプロレスに携わる者として、ここでは「プロレス」ではなく「illusion」という言葉を打ち立ててみたい。イリュージョンとは、実際には存在していないものを大掛かりな舞台装置を用いることで、さも存在しているように錯覚させてしまうショーのことだ。イリュージョンを行う者を「illusionist」と呼ぶ。イリュージョニスト。ある翻訳サイトの定義によれば、「観客を驚かせるために奇術やだまし絵などを演じる人のこと」「規模の大きなパフォーマンスを行う奇術師が好んで名乗る肩書」。どちらも、プロレスの本質を的確に射抜いている。
トランプの本質をイリュージョニストであると仮定した上で、知人である現役アメリカ人レスラーらにインタビューした。彼らによるトランプ評から、現在とこれからのアメリカを分析してみたい。
「トランプ大統領のいわゆるディールは、明らかにプロレスから学んだものだ。彼はプロレスのあらゆる手法を巧みに使い、究極のヒールを演じている。彼はビンス・マクマホンから多くのことを学んだのだ。あの独自のキャラクターが確立されたのは、間違いなくビンスとの抗争後からだと確信している」(テキサス州在住、62歳・日系男性プロレスマネージャー)
WWEの人気が世界的に爆発したのは、ビンスが〝暴君オーナー〟として好き勝手にふるまうキャラとなってからである。人間は、そういった人物から目が離せなくなるのだ。
プロレスに限らず人様に見られてナンボの世界において、一番の悪は「関心を持たれない」こと。トランプはそのことをプロレスから学んだのだ。
ではトランプ政権へ移行したことで、もともと距離の近いプロレス界の景気はどうなっているのか。
「現在のトランプは、次々と打ち出してくる突拍子もない提案で世界を圧倒しようとしている。そのうちの1つや2つは、本当に実現してしまうだろう。しかしこのままでは、アメリカは確実に激しいインフレに陥る。その兆候はすでに見えている。それにより、人々が最初に削減するのはプロレスのようなレジャーであり余暇だ」(マサチューセッツ州在住、32歳・白人男性レスラー)
そして彼はこう続けた。
「トランプ就任後のアメリカは、友人や家族でさえ意見の対立を避けるために政治の議論を避けている。特に、トランプ支持者たちはそれを堂々とは公言できない空気が日に日に広まってきている」
ちなみに彼は共和党支持者である。さらには、こんなストレートな意見も。
「トランプの政治はプロレスと似ているわ。常に何が起きるか予測できない可能性に満ちているから」(イリノイ州在住、28歳・白人女性レスラー)
これを聞いて、口論から和解に転じた、ゼレンスキーとの会談が真っ先に頭に浮かんだ。いいレスラーは自分自身の策略とふるまいで上手に敵を作り、上手にピンチに陥り、上手に逆転し勝利するものなのだ。そこからさらに頭に浮かんできたのが、石破茂総理による高額療養費制度に対する考え方の二転三転である。「私の間違いだった」という結論に着地し国民感情に寄り添う気配は、トランプ・イリュージョンに倣ったものではあるまいか。
TAJIRI:1970年生まれ。94年プロレスラーデビュー。日本のプロレス団体のほか、メキシコ・CMLL、アメリカ・ECW、WWEで活躍。現在、九州プロレス所属。172cm、82kg。著書に『プロレス深夜特急 プロレスラーは世界をめぐる旅芸人』『戦争とプロレス』(弊社刊)など。最新刊『プロレスの味わい 世界から地方に来て幸せになった男』(西日本新聞社)。
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