2006年から19年にわたり火星を周回探査している探査機といえば、NASA(アメリカ航空宇宙局)の「マーズ・リコネッサンス・オービター(MRO)」。NASAはMROが上空から撮影した画像を、定期的に「アストロノミー・ピクチャー・オブ・ザ・デー(今日の天文写真)」としてウェブサイト上で公開している。
そして今年4月中旬に公開された写真は、なんとも驚くべきものだった。なにしろそれは、火星の表面に幅100メートル以上にわたってポッカリと空いた穴。SFファンはもとより、宇宙研究者も「これは地球外生命体が存在する世界への入り口ではないのか」などと考えたのである。
この写真は2017年に撮影されたもので、火星ではこれまでにも同様の穴が発見されている。それらは「ピット」や「ホール」と呼ばれ、たびたびウェブサイト上で公開されてきた。
このような穴が火星で多く見られるのは、太陽系最大級の火山があるとされる、タルシス地域の古い火山側面。ただ、これまで確認されてきた穴はいずれも数メートル程度と小さく、噴火ではなく地震による地殻変動でできたものではないのか、と推測されていた。それが100メートル超の穴となれば、ちょっとした騒ぎになるのも当然なのである。
周知のように火星は、周囲を覆う厚い大気がないため、常に表面を太陽放射線や高レベルの宇宙放射線に晒される。よって、生命体は存在しないと言われてきた。
今回の穴については、NASAの科学者の中には「隕石衝突説」を唱える者から、「いや、この穴こそが下層に通じる入り口で、その先には生命体が存在する広大な地下洞窟が存在する可能性がある」との指摘も。NASAでは侃々諤々の意見が交わされているという。
NASAが発表したコメントも意味深だ。
「これらのピットは将来の宇宙船、ロボット、さらには人間の惑星間探検家にとっても主要なターゲットとなります」
いかなる生命体も潜んでいない、とされてきた火星。謎の穴の正体には俄然、強い関心が注がれるのである。
(ジョン・ドゥ)