現在では芸能人でも個人情報保護法によりプライベート情報を守るため、住所はおろか、家の写真を掲載することも難しくなっている。しかし1980年代頃までは芸能人の自宅は、テレビや週刊誌などで当然のように紹介された。それ以前はタレント名鑑などに、住所まで載っていた。住所がわかれば住民票を取ることができた、今にして思えば、信じられないほど緩い時代だった。
筆者も芸能人の自宅で取材することが何度かあった。夏目雅子の婚約発表や映画監督・黒澤明の文化勲章受章が決まった際は、自宅で会見が行われた。テレビで芸能人の自宅を紹介する番組もあった。
そんな著名人の家の中で最もインパクトが強かったのが、北島三郎の豪邸だ。1986年にその豪邸のメディアお披露目会が行われ、筆者も参加した。
東京・八王子市に建てた自宅は、総工費20億円と言われた。敷地面積は1500坪。部屋数は三郎にちなんで36というケタ外れの豪華さだ。八王子の街を見渡せる高台にあり、城主になったような気持ちだったのではないか。
北島は外観を紹介するだけではなく、家の中に大勢のメディアを招き入れ、家の中を撮影させてくれた。北島は大きなソファーに座り「夢がかないました」と笑顔を見せた。家の中には絵画や骨とう品のような「お宝」らしきものが飾ってあった。現在ならば、窃盗団の格好のターゲットになるだろう。
振り返ると、これだけオープンだったものの、現在のような悪質な犯罪は少なかったような印象がある。北島の豪邸紹介は、かつての平和で緩い時代を象徴するイベントでもあったように思える。
(升田幸一)