社会

【愛知・小牧基地】自衛隊機「入鹿池墜落」までにパイロットが直面した「究極の選択」

 街に向かって落下する機体を、自らの脱出を犠牲にしてでも操縦し続ける。そんな決断を迫られたとしたら、パイロットはどれほどの覚悟を示すものなのか。

 5月14日午後6時6分、愛知県の小牧基地を離陸した航空自衛隊新田原基地第305飛行隊のT-4練習機は、離陸わずか2分後に犬山市の農業用ため池「入鹿池」付近でレーダーから消えた。池に浮遊する機体の一部や燃料、ヘルメットなどが確認されたが、乗組員2名の安否はいまだ明らかになっていない。

 入鹿池は小牧基地の北東約13キロに位置し、周辺には博物館明治村や民家、小学校が点在する。もし市街地へ誤って墜落していれば、甚大な人的・物的被害を招くおそれがあっただろう。

 疑問に思ったのは、なぜ乗組員が早期に緊急脱出を選択しなかったかという点だ。目撃者は「操縦ミスには見えず、人のいる場所を回避するように落ちていったように見えた」と証言している。

 T-4練習機に搭載される射出座席は、地上0フィートの無速状態でも作動可能なゼロ-ゼロ対応型だ。しかしパラシュートが降下減速効果を発揮するには、脱出後に少なくとも数十メートルの高度が必要となる。離陸直後の低高度ではパラシュート展開が間に合わず、かえって乗員の生命を危険にさらす場合がある。そうした状況下で「機体制御を優先し、被害の少ない場所へ誘導してから脱出を試みる」という判断を迫られた可能性は高い。

 この選択は、1999年11月22日に埼玉県狭山市の入間川河川敷で起きた「T-33A入間川墜落事故」を彷彿させる。当時、ベテランパイロット2名は、エンジントラブル発生後も住宅地や学校を避けるために河川敷へと機体を誘導し、脱出が遅れてともに殉職した。墜落直前に東京電力の送電線を切断して首都圏の大規模停電を引き起こした上、T-33Aが「訓練機」と報じられたことから批判が噴出したが、その後、ベテランパイロットが危険を顧みずに被害の低減に努めたことが明らかになった。民間人の死傷者を出さず、その英断は高く評価された。

 今回のT-4事故でも、市街地への被害を回避するために最後まで機体を制御し、水面への着水を選んだ可能性は否定できない。もしそうであれば、乗組員は自身の安全よりも地上の人命を守るという、究極の選択をしたことになる。

 原因究明には調査結果の報告を待つ必要がある。今回の事故は、自衛隊機に課せられた「市民の安全を第一に守る」という重い責務の一端を、改めて浮かび上がらせることになった。

(ケン高田)

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