プロ野球セ・パ交流戦は、コロナ禍で2020年が中止となっているため、今年が「節目の20回目」ということになる。過去19回でセ・リーグが勝ち越したのは3回だけ。今年は1カード目の6月5日終了時点でセ・リーグが6勝、パ・リーグが11勝だった。2日目の6月4日は、セ・リーグ6球団が全敗している。
着実に白星を積み上げつつあるパ・リーグだが、交流戦期間中にしか見られない「恒例の光景」がある。パ・リーグ各球団の裏方スタッフが、裁縫セットを持ち歩くのだ。
小銭入れのような小さいものを常備している球団があれば、裁縫箱で用意しているところもある。なにゆえ野球で裁縫セットを持ち歩くのか。プロ野球の世界では、ユニフォームのクリーニングや綻びなどは、専門の業者が修繕してくれる。ところが交流戦期間中のパ・リーグだけは、いつも通りにはいかないことが起きるのだ。
結論を先に言えば、ユニフォームについている広告の問題である。
「セとパで、ユニフォームについている広告に関するルールが違うんですよ」(NPB関係者)
12球団が出資企業のロゴマークをつけることを認めているのは帽子、ヘルメット、ユニフォームの胸の辺りと袖、「腰広告」の業界用語で呼ばれるズボンの前部。異なるのはその解釈で、セ・リーグが「広告をつけていいのはホームゲームのチームだけ」としているのに対し、「ホーム、ビジター、どちらもOK」としているのがパ・リーグだ。パ・リーグ球団関係者によれば、
「交流戦中も1軍と2軍で選手の入れ替えが行われます。パの2軍選手の昇格が急に決まると、ビジター用ユニフォームに『広告が付いたまま』なんてことがあるんです。だから試合前に裏方スタッフが裁縫セットを使って広告を剥がしたり、継ぎはぎで見えなくしたりするんですよ」
たまに黒いビニールテープを貼ったヘルメットで打席に立つ選手がいるのは、そんな事情によるものだという。
セもパのように、ホームとビジター両方の広告掲載を認めればいいのでは、と思うのだが、聞けば同じ業界同士の広告のバッティングを防ぐ意味合いもあるそうだ。
20回目を迎えても、舞台裏のドタバタは相変わらず。失礼ながら、筆者は5月のゴールデンウィークを過ぎた頃、自宅にある裁縫セットを見て「いよいよ交流戦か!」と感じるのだ。
(飯山満/スポーツライター)