サッカーJ1の川崎フロンターレは、今季限りで鬼木達監督が退任する。8シーズンで7つのタイトルを獲得した手腕は無論、若手の育成に優れた能力を見せ、日本代表のMFたち、三笘薫、旗手怜央、田中碧らを海外リーグで通用する選手に育てた。
そんな中、川崎で最後の鬼木チルドレンとして覚醒したのがFW山田新(しん)だ。
山田は2022年の桐蔭横浜大学に在籍時、特別指定選手として川崎のトップチームに登録されると、DFの意表を突くスペースに抜け出す上手さと、高いシュート精度が評価された。全日本大学サッカー選手権の決勝では、劇的な決勝ゴールで勝負強さを発揮している。
ルーキーイヤーの昨季こそリーグ戦27試合に出場して4得点だったが、大卒2年目の今季は夏にレギュラーの座をつかむと、得点ランキング3位タイの19ゴールを記録。特に才能が爆発したのは、11月30日に行われた第37節の東京ヴェルディ戦といえよう。5-4の壮絶な打ち合いの中、山田は川崎の全5得点に絡んだのだ。
前半16分にPKで先制を奪うと、6分後には右からのクロスに対し、バックステップで合わせて2点目。後半の立ち上がりに同点にされると、後半12分にスローインから力強いキープで粘り、DFファンウェルメスケルケン際のJ1初ゴールをアシストした。
同20分には山田のシュートのこぼれ球をMFマルシーニョが押し込んだが、再びヴェルディに立て続けに失点し、同点に追いつかれた。ここからの山田の凄さを、サッカーライターが解説する。
「圧巻のプレーは、引き分けで終わると思われたアディショナルタイムでのものでした。味方が競り合ったこぼれ球に即座に反応し、DFをブロックしながらダイレクトでシュートを放ち、ついにハットトリックを達成しています。右足、頭、左足のどこでも点を取れることを証明しましたね」
大仕事をやってのけた万能ストライカーは、FWとしての強靭なメンタルを兼ね備えていた。実はヴェルディ戦ではクリアミスや自陣ゴール前での処理を誤り、2失点に絡んでいたのだ。だが、試合中に落ち込む表情は見せず、ハットトリックでミスを帳消しにしたというわけだ。
「普段から明るい性格で知られ、大先輩のGKチョン・ソンリョンの独特なしゃべり方のものまねがSNSでバズったことがあります。FWとしては肉体派で、昨季より明らかに筋肉を増量して、ユニフォームがパンパンに。馬並みの足腰はもちろん注目ですが、腕の強さだけでDFを跳ねのけ、自分の間合いでシュートを打てるようになり、ゴール量産につなげています」(前出・サッカーライター)
今季の川崎は11位と成績不振で暗いニュースが多かったが、「シン・エース」の爆誕で、サポーターには来季の希望の光が差し込んだ。
(風吹啓太)