政治
Posted on 2025年09月22日 06:00

前駐豪大使・山上信吾が日本外交の舞台裏を抉る!~全国戦没者追悼式で石破総理が発した「反省」の不可解~

2025年09月22日 06:00

 蝉しぐれの中、今年も8月15日が過ぎていった。

 注目されていた石破総理による「戦後80年談話」は、この日は不発に終わった。

 直後、立憲民主党の辻本清美議員がXで吠えた。

「石破総理、がっかりですよ!なぜ、8月15日に『戦後80年談話』を出さなかったのですか?石破さんらしくないよ!」

 いかなる政治勢力が「80年談話」なるものを欲していたかが白日の下に晒された瞬間だった。

 一方で、全国戦没者追悼式での石破総理大臣式辞を読んでいて暗澹たる気持ちになった。というのも、一国の総理大臣の立場にある者が「反省」という言葉を軽々しく発したからだ。

 石破氏曰く「さきの大戦から、80年が経ちました。今では戦争を知らない世代が大多数となりました。戦争の惨禍を決して繰り返さない。進む道を二度と間違えない。あの戦争の反省と教訓を、いま改めて深く胸に刻まねばなりません」。

 一見、型通りの挨拶のように見えながら奇異で不可解なのは、安倍政権以降用いてこなかった「反省」という文言を復活させたことだ。

 そもそも反省とは、「自分の行いを顧みること」である。

 トランプ政権との関税交渉を赤沢大臣に丸投げしたことや、中国で在留邦人が殺傷されようが阿るばかりで苦言のひとつ呈さないことは、石破総理の行いそのものだ。大いに反省してもらいたいと思っている国民が多数いるからこそ、先の参議院選挙で惨敗した次第だ。

 しかしながら、大東亜戦争に踏み切らざるを得なかったことは石破総理とは何ら関係がない。石破氏が反省できる、或いは反省すべき立場にもない。

 日本が大東亜戦争に至った歴史を学んだ誰しもが、怒涛のようなあの時代を生きた我々の先人の苦悩を共有し、コーナーに追い込まれて敢えて立ち上がらざるを得なかった胸中に限りない共感と哀惜の念を覚えてきたのではないか?

 そうした陰影を一切感じさせず、ひたすらに当時の為政者や国民を断罪して良しとする「反省」という言葉の安易な選択。歴史の浅薄な理解と英霊や戦没者への薄情がうかがえると言って過言ではなかろう。

 英語で「マンデー・モーニング・クウォーターバック」という言葉がある。日曜日のアメリカンフットボールの試合が終わった翌朝に「ああでもない」「こうでもない」と事後講釈を垂れる素人を揶揄したものだが、石破氏こそ当てはまるのではないか?

 戦後50年の村山談話では、「植民地支配と侵略」によって「多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛」を与えたとして、「痛切な反省」の意を表し、「心からのお詫び」を表明するとした。

「反省」は「お詫び」と一体とされているのであり、戦後80年経ってまたしても謝罪外交を続ける姿勢を見せたという批判は免れないだろう。

 むしろ、石破氏が「反省」すべきは、このような謝罪外交が一体何をもたらしたのかという冷徹な省察だ。謝りさえすれば歴史問題を乗り越えられるなどと考えた者がいたのであれば軽挙そのものだ。

 実際、謝罪したからこそ、慰安婦問題や徴用工問題で相次いで補償要求を招いたのではないか?

 中国共産党、北朝鮮労働党、プーチンのロシア、韓国左翼勢力が事あるたびに「歴史カード」を振りかざし、日本を貶め道徳的高みに立って、今の時代の外交を彼らに有利にとり進めようとしてきたのではないか?

いい加減に目を覚ませ!これこそが反省点の最たるものだろう。

●プロフィール
やまがみ・しんご 前駐オーストラリア特命全権大使。1961・年東京都生まれ。東京大学法学部卒業後、84年・外務省入省。コロンビア大学大学院留学を経て、ワシントン、香港、ジュネーブで在勤。北米二課長、条約課長の後、2007年・茨城県警本部警務部長を経て、09年・在英国日本国大使館政務担当公使、日本国際問題研究所所長代行、17年・国際情報統括官、経済局長を歴任。20年・駐豪大使に就任。23年末に退官。同志社大学特別客員教授等を務めつつ、外交評論家として活動中。著書に「中国『戦狼外交』と闘う」「日本外交の劣化:再生への道」(いずれも文藝春秋社)、「国家衰退を招いた日本外交の闇」(徳間書店)、「媚中 その驚愕の『真実』」(ワック)、「官民軍インテリジェンス」(ワニブックス)等がある。

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