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記事全文を読む→三又又三の「社長、前借りいいですか?」〈浅草の思い出〉
元気ですか〜!(猪木風)。還暦ブレイクを本気で狙っている三又又三(58)です。
春になると18歳で岩手から上京した時のことを思い出すんです。当時はバブル真っ盛り。若者たちは六本木だ、渋谷だと浮かれまくっていましたが、東京に着いて真っ先に向かったのは浅草のフランス座でした。
師匠のビートたけしさんが、フランス座での修業時代を「オールナイトニッポン」で面白おかしくしゃべっているのを聴いて、「これは楽しそうだ」と思っていたし、僕もエレベーターボーイになって住み込みでコントを学んで人気芸人への道を歩んでいくんだって。そんな夢を抱いて浅草に向かったわけですよ。
それらしき建物を見つけて、呼び込みのお兄さんに声をかけると、
「何言ってんだ。ここはロック座だよ、バカ!」
すごい剣幕で怒鳴られてテンションは急降下。ようやくフランス座にたどりついたものの、受付の近くで外国人の客とエレベーターボーイが揉めてるんですよ。「金は払った」「いや払ってない!」なんてね。
劇場に入ると、照明は薄暗くて、客席はスカスカ。空気もどんよりしていたせいか、次々と出てくる踊り子さんが全員、妖怪に見えてしまったほど。10代の僕が抱いていたイメージと現実の落差があまりに大きかったんです。
ショーの合間に、黄色いアロハシャツを着た人がトリオでコントをしていましたが、全然頭に入ってこない。客席もシーンと静まり返っているんですよ。
え? 本当にここがフランス座? 渥美清さんや萩本欽一さんが芸を磨いたステージなの? ビートたけしさんが寝泊まりしていたフランス座なのか‥‥!?
僕はフランス座のステージに立つ自分の姿をどうしても想像できませんでした。できるわけがない。自分には無理だ‥‥。上京して、あっという間に夢を打ち砕かれた思いでした。
そんな僕を救ってくれたのが、すぐ隣にある浅草演芸ホールでした。「このまま帰るのも‥‥」と思ってフラリと入ってみれば、舞台に上がっていたのは春風亭昇太師匠。当時から明るくて、いつも笑顔。客ウケもよくて、フランス座から引きずっていた重たい空気がサーッと晴れていったんです。
トリ前では「裕次郎物語」などの新作落語で知られる昔昔亭桃太郎師匠が巨人軍のネタでしっかりと笑いを取っていました。
そして大トリを務めたのが三代目の三遊亭圓歌師匠。ご自身の体験をもとに作られた「中沢家の人々」は今でもはっきり覚えています。麴町の屋敷で自分のご両親、奥様とそのご両親と6人で暮らしていたところ、その奥様が亡くなって、4人の老人と同居することに。その後、再婚したものの、新しい奥様のご両親もついてきて、老人6人と暮らすハメになるというね。
「一時は俺ん家、じじいとばばあが佃煮にするほどいたんだよ。じじいとばばあが6人で丸くなってお茶を飲んでるの。遠くから見たら恐山だよ」
師匠の語りが面白くてゲラゲラ笑いましたよ。もしもこの日、浅草演芸ホールに立ち寄って、話芸に感銘を受けていなかったら、芸人の道には進んでいなかったかもしれません。
あれから40年経って、僕はフランス座があった「東洋館」の舞台に立っています。ビルの屋上は昔からまったく変わっていないそうで、渥美清さんや萩本欽一さん、そしてビートたけしさんがネタや芝居の練習をしていたと思うと感慨深いですよね。僕もここで漫談の稽古をしていると、雲の上から渥美清さんが寅さん口調で話しかけてくれるような気がするんです。
「お兄さん、どうだい? 芸人も大変だろ。頑張りなよ」
今ではいちばん落ち着ける場所になったような気がします。
三又又三(みまた・またぞう)株式会社TAP所属のお笑い芸人。「踊る! さんま御殿!!」(日テレ系)、「志村けんのバカ殿様」(フジ系)等数々のバラエティーに出演。2023年より不動産会社に勤務し、芸人との二刀流で活動。今夏より漫才協会に入会。
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