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Posted on 2026年08月08日 10:02

「世代論」で読むプロ野球〈大谷・誠也世代〉(3)完成品でなかった大谷と誠也

2026年08月08日 10:02

 一方、大谷翔平は同じ夏、岩手大会準決勝で当時の高校生最速となる160キロを計測した。ところが決勝で盛岡大付属に敗れ、夏の甲子園には届かなかった。速球の数字では日本中を驚かせながら、最後の全国の舞台にはいない。大谷の高校時代は、完成ではなく予感で終わったのである。甲子園での勝利よりも、誰も見たことのない未来を感じさせた選手だった。

 鈴木誠也は、さらに全国の視界から遠い場所にいた。二松學舎大付属では投手として最速148キロ、打者として高校通算43本塁打を記録したが、在学中に甲子園出場はない。高1の秋から主力投手となり、最後の夏も東東京大会で敗退した。当時は全国的には無名に近く、藤浪と大谷が「怪物右腕」として並べられる陰で、鈴木は投手なのか野手なのかさえ定まりきらない素材だった。

 鈴木については、甲子園に出ていないことと、才能を知られていなかったことを同じにしてはいけない。中学時代から評判は高く、40校を超える高校から誘いがあったとされる。二松學舎大付属の市原勝人監督も、早くから「投手より野手としての魅力が勝る」と見ていた。

 テレビの全国中継がつくる知名度と、現場の評価は別物だった。藤浪が結果で全国を支配し、大谷が一球で全国を驚かせた裏で、鈴木はスカウトや指導者の目にだけ見える“隠れた怪物”だったのである。

 その年のドラフトは、三人の現在地を鮮やかに示した。藤浪には阪神、オリックス、ロッテ、ヤクルトの4球団が1位で競合し、阪神が交渉権を獲得。メジャー挑戦を表明していた大谷は日本ハムが1位指名した。鈴木は広島から2位で、しかも投手ではなく内野手として指名された。甲子園の王者、規格外の未完成品、全国大会に出ていない投手兼強打者。三人は同じ学年でありながら、まるで別々の競技からプロへ入ったようだった。

 興味深いのは、彼らを迎えた球団もまた、完成品として扱わなかったことだ。日本ハムは大谷を入団へ導き、1年目から投手と野手の二刀流で起用した。

 広島は高校で主に投げていた鈴木を内野手として指名し、のちに外野へ移した。本人の才能だけでなく、「いまの守備位置を将来の職業にしなくていい」と考えた育成側の決断も、この世代を世界へ押し出した。

 だが、その「定まらなさ」こそが94年組の新しさだったのかもしれない。

 大谷は投手か打者かという二者択一を拒み、メジャーで投打の両方を成立させた。鈴木は高校時代の主戦場だったマウンドを降り、内野手を経て外野手となり、日本を代表する強打者へ変貌した。25年にはカブスで32本塁打、103打点を記録している。藤浪もまた、阪神からポスティングで海を渡った。

 三人とも、18歳の時に与えられた役割だけでは人生を終えなかった。

ゴジキ:野球評論家・著作家。「データで読む甲子園の怪物たち」(集英社新書)ほか著書多数。「マネジメント術で読むプロ野球監督論」(光文社新書)が重版出来。発売前から重版となった最新刊「システムで読む甲子園」(カンゼン)が絶賛発売中。Yahoo! ニュースエキスパート。

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