社会
Posted on 2026年09月09日 06:30

50億円いるって!? 南海フェリー「和歌山~徳島」減便⇒撤退でわかった和歌山県と徳島県の「必要切実度」大きな温度差

2026年09月09日 06:30

 大阪南部や和歌山に暮らす人間にとって、南海フェリーの和歌山港~徳島港の航路は四国への最短ルートだ。明石海峡大橋を使えば神戸まで北上し、淡路島を縦断する大回りになるだけでなく、渋滞する阪神高速を抜ける手間もある。紀伊水道の61キロを約2時間15分で渡す南海フェリーは、前身の南海汽船から約70年、地元の足として重宝されてきた。

 だが運営する南海電鉄はフェリー事業からの撤退を既に表明し、2028年3月末の営業終了が迫っている。船や設備の老朽化、従業員確保の困難で安全運航に支障が出れば前倒しもありうると予告していた。その懸念の一つだった乗組員不足が表面化したのは8月だ。

 和歌山港~徳島港便が1日8往復から6往復に減り、上下4便が消えた。理由は乗組員不足だ。減便は「当面の間」とされ、元に戻る見通しは立っていない。

 航路の最盛期は1995年度。旅客約97万人、営業利益6億4800万円を叩き出した。だが1998年の明石海峡大橋開通で、流れは一変する。大阪・神戸から四国へ向かう車とトラックは橋へと移り、2024年度の旅客は35万7000人まで減少。21億3000万円を売り上げたものの、900万円の営業損失を出した。コロナ禍では年5億円超の赤字に陥り、2021年度以降は資産より負債が上回る債務超過が続いている。

 現在、船は2隻。1999年就航の「フェリーかつらぎ」は老朽化が進み、代替船の建造に約50億円がかかる。2019年就航の「フェリーあい」1隻でしのぐ案も出たが、経営の維持は無理だと判断された。

赤字航路を「いざという時の備え」で誰が維持するのか

 それでもこの航路には、橋では代えがきかない役割がある。年間約9万台の乗用車と約2万5000台の貨物車が利用し、乗船中の約2時間がドライバーの休憩時間になる。今年7月には和歌山県トラック協会などが、労働時間規制への対応を理由に存続を要望した。

 加えて南海フェリーは2004年、徳島県と被災者や災害対応要員、物資の輸送に関する協定を結んでいる。1995年の阪神・淡路大震災では道路や鉄道が寸断され、海上輸送が迂回路として活用された。南海トラフ巨大地震で橋や高速道路が止まれば、紀伊水道を渡るこの航路が同様の役割を担いうる。

 ただ、平時に赤字を出す航路を「いざという時の備え」として誰が支えるのか。和歌山県の宮﨑泉知事は「あらゆる手立て」を講じる構えだが、徳島県の後藤田正純知事は巨額の税金投入に否定的で、交通弱者対策に回す方が有効との立場をとる。橋経由の陸路がある徳島と、紀伊水道を直接渡る手段に頼ってきた和歌山では、そもそも航路に対する切実さが違うのだ。

 9月時点で具体的な後継事業者は公表されていない。約50億円とされる代替船の建造費、乗組員の確保、自治体の費用負担。どれも片づかないうちに、減便だけが先に始まった。南海フェリーが現在の運航体制を2028年3月まで維持できる保証はないのだ。

(ケン高田)

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