政治

田中角栄 日本が酔いしれた親分力(4)日本を発展させる資金作りに挑んで

20160630r1st

 いよいよ政治の世界に身を投じた田中角栄。だが、宰相への道はまだ遠い。学歴・人脈が幅を利かせる官僚の現場で、大きな苦戦を強いられる田中だったが、鋼の意志で1歩ずつ、その駒を進めていく。揺るぎない「リーダーの格」なくして、この熱き男の野望は成しえなかった!

 田中角栄は、1952年(昭和27年)頃、張り切っていた。

〈道路整備は、戦後日本の大きな課題だ〉

 問題は、整備財源をどこに求めるか、であった。

 田中は、当時建設官僚であった井上孝(後に国土庁長官)に調べさせた。

「アメリカでは整備財源はどうなっているか、大至急調べてほしい」

 井上は建設省の第一期生時代、国会議員の現地視察に随行したことがある。新潟県の只見地域であった。

 当時自由党の田中も視察に参加した。田中は地下足袋にゲートルを巻き、藁編みの陣笠をかぶり、山道をずんずんと登っていく。その姿はエネルギッシュであり、迫力があった。

〈バイタリティの塊という感じの人だな〉

 そんな印象を抱いた井上は、視察後しばらく田中と顔を合わせる機会がなかったが、1年後に偶然すれ違った。

 井上は思った。

〈俺の顔は、きっと忘れているだろうな〉

 ところが田中は、ニコニコして声をかけてきた。

「おい、井上君。久しぶりだな」

 井上は感激した。

〈顔だけじゃなく、名前もちゃんと覚えていてくれたのか〉

 田中は、愛嬌たっぷりに続けた。

「君、ホルモン焼きを食っているか」

 只見地域を視察する前の晩、視察団は有楽町のホルモン焼き屋でちょっとした壮行会を行った。田中は、そのことも覚えていたのである。井上は感心した。

〈田中さんは、人の心をつかむのがうまいな〉

 またある時、井上は海外出張をすることになった。どこからか聞きつけたのであろう、田中の秘書がやってきた。

「田中からの餞別です。遠慮なく使ってほしい、とのことです」

 金額は、20万円であった。ぎりぎりの出張費しかもらえない井上にとって、そのころの20万円はひどくありがたかった。

〈こういう細かいところにも気を配っているんだな〉

 そんな田中の依頼を受けた井上は、さっそく調査結果をまとめ、田中に報告した。

「アメリカでは、ガソリンの税金を、道路整備財源に充てております」

 田中は、GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)もその意向であることを察すると、ガソリン税を道路法案の財源に充てることに決めた。井上も喜んだ。

「自前の財源で道路を整備するのは、夢でした」 

 48年(昭和23年)に独立したばかりの建設省に、その力はなかった。

「田中先生、もし道路三法ができれば、道路整備の基礎工事は、最低限できます。特にガソリン税法が通れば、建設省が独自の財源を持てることにより、道路整備の長期計画が立案できます。その意義は、計り知れないものがあります」

 道路三法とは、【1】道路法【2】ガソリン税法(道路整備費の財源等に関する臨時措置法)【3】有料道路法(道路整備特別措置法)を指す。

 田中は、土建屋上がりゆえに、建設省の連中には親近感を感じていた。今後、地元の橋などを直させる時にも、ただ「ふるさとの西山町の橋を直せ」と建設省の役人に命じても動いてくれるはずがない。建設官僚が動きやすいように、まずは財源を作ることが先決と考えていた。

作家:大下英治

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