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記事全文を読む→病魔と闘う荒ぶる役者たちの不屈秘話 「第3回・渡瀬恒彦」(2)タバコの火は自分でつける
俳優・永井なおきは、90年から2年半ほど渡瀬の付き人を務めた。短い期間ではあったが、渡瀬から現場で教わったことは今も忘れない。
「雪山のロケで、僕はスニーカーで来たものだから寒くて震えているんです。渡瀬さんに『寒いところで寒そうにしていたら一般人だ』って言われましたね。お前も役者なんだから、という意味です。実際、渡瀬さんは雪山でコートを着ない撮影が終わっても、すぐに暖かいところに走るなんてことはしなかった」
それが渡瀬の美学である。さらに、この現場では渡瀬の男気が一同を感激させたと永井は言う。
「朝に届くはずだった弁当が遅れて、それを昼の休憩で出されたからゴハンはカチカチ。渡瀬さんは『これだけスタッフが頑張っているのに何だ!』と怒って、これを回収。スタッフを近くのサービスエリアに引き連れて、自腹で温かい食事をふるまっていました。ただし、そこには責任者である局の上層部は連れて行きません」
永井が何代目かの付き人を務めた時、先輩から言われた“申し送り”がある。もし、現場で渡瀬がプロデューサーにキレそうになったら、お前が先に殴られて阻止しろと。
渡瀬は、それまでのスター俳優とは何から何まで違っていた。
「打ち上げでプロデューサーが渡瀬さんのタバコに火をつけようとすると『自分でやるからいいよ』と制する。スター然とした扱いは苦手なんです。そもそも、撮影現場にたまにしか顔を出さないプロデューサーを極端に嫌うんです」
渡瀬は看板シリーズをいくつも抱えているが、キャストだけでなく、スタッフの変更もよしとしない。同じメンバーで作品と向き合うことに重きを置いているため、末端のスタッフにこそ気遣いを見せる。
永井が現場でいつも持ち歩くのは、渡瀬が腰かけるためのイス、台本、そして救急セットの3点だが、これが真夏の炎天下のロケで威力を発揮した。
「渡瀬さんに救急セットからコールドスプレーを出せと言われて、それを渡すと、暑さで死にそうになっているスタッフ1人1人、首の後ろに吹きつけて回っていくんですよ」
付き人を辞めて以降も永井は、年に2回のペースで渡瀬の自宅を訪ね、近況報告をする。直近で会ったのは、渡瀬の胆のうガンが明らかになった翌日だった。
「ご自宅でトレーニングをしていらして、それが終わるまで待っていろと。それからリビングに案内され、いつものように僕の近況をニコニコした顔で聞いてくれました」
事務所が公表したわけではないが、92年から続く「十津川警部シリーズ」(TBS系)も内藤剛志への交代が報じられた。04年には、かつての妻である大原麗子の共演希望を聞き入れ、大原にとって最後のテレビ出演をかなえてあげた。
そんな渡瀬にとって、体調不良で十津川警部役を降りるのは無念なことであろう。
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