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記事全文を読む→プロ野球「師弟の絆」裏物語 最終回 新垣渚と秋山幸二の「捲土重来」(4)
新垣は「どん底を知った人間」
まだ“速球派”のイメージを捨てきれない新垣に秋山が伝えたのは自身の経験談だった。
93年のオフに西武からダイエー(現ソフトバンク)にトレードになった時、秋山は大きな決断を迫られた。
ダイエー側は佐々木誠、村田勝喜、橋本武広が、一方の西武は秋山、渡辺智男という3対2の大型トレードだった。この時にフェンスの低い西武ドームからフェンスの高い福岡ドームに対応するために、秋山はバッティングフォームを変えている。その狙いは、打球の弾道を高くするためのものだが、結果的に、腰を痛め選手寿命を縮めているのだ。
「あそこで腰を痛めなければ50歳まで現役を続けることができた」
と、今でも秋山は言うが、ホームランバッターのイメージを払拭するのは並大抵ではなかった。
「でも選手生命をかけている以上、しかたがないこと」
と秋山はバットのグリップの改造やバッティングフォームの変更を考えながら、99年のホークス日本一に貢献した。さらには、この年の中日との日本シリーズではMVPになり、尊敬する王貞治監督(=当時=現ソフトバンク球団会長)を胴上げしているのだ。
ダイエー時代の秋山のバッティングは、西武時代とはまったく別物だった。センターを中心にしたチームバッティングに徹した結果だった。
「自分の野球観を根底から変えなければいけない時もある。だがそれによって新しい道も開けてくるんだ」
自分の体験談をリハビリに苦しむ新垣に話したことが、今日の新垣のピッチングに大きな影響を与えたことは言うまでもない。
だが、速球にこだわりを持ち続けていた新垣には、当時はまだ、その意味が理解できなかったという。
秋山の言葉が1年たち、2年たち、勝てないリハビリの日々の中でようやく理解したのは、肘の故障から3年目を迎え、ようやく自分なりに満足のいくピッチングができるようになってからだった。
「気がつけば、和田や杉内には給料でも待遇面でもずいぶん差がついてしまった。自分の理想とか言っていられる状況ではなかった。肘に負担のかからないようなフォームを探して、コントロール中心のピッチングをすることに結論づけてから、気持ちが楽になった」
と新垣は振り返ったが、アドバイスこそすれ、本人が納得するまでじっと待っているのも秋山スタイルと言っていいかもしれない。
だからこそ、4年ぶりのマウンドでもチームの大事な場面で、全てを任せたのかもしれない。
秋山は言う。
「やっぱり、どん底を知っている人間は最後の最後に生き延びる強さを知っているから」
現在のソフトバンクには昨年の日本一のメンバーがほとんどいない。残っているのは野手では本多雄一(27)、長谷川勇也(27)以外は故障。投手では攝津正(30)、山田大樹(24)以外は頼みの綱のファルケンボーグ(34)も二軍。そんな中で頼りになるのは、やはりどん底を見た新垣の存在だったに違いない。
「自分の子供が必死になって立ち上がろうとしたり、動こうとしている姿を見ていると、自分の苦しみなんて大したことないなと思いました。生き抜くためには自分のスタイルを変えるなんて大したことないですよね」
新垣は復活を遂げた時の心境をこう語り、自分のスタイルを変えるきっかけを作ってくれた秋山に感謝した。
混パが続く中、満身創痍のソフトバンクにあって、どん底を知る存在の人間同士の心の会話ができる上司と部下が支えるチームは、そう簡単に落ち込んではいかないはずだ。秋山監督は平然と言う。
「いる人間の総力で戦うしかないじゃん。ここまで来たら─」
その中心になるのは復活して6勝目をあげた新垣ではないだろうか。
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