芸能
Posted on 2013年01月31日 10:00

悪人はヒーローよりも魅力的存在

2013年01月31日 10:00

 たった一人で原爆を作り上げ、国家権力を相手に荒唐無稽な要求を繰り広げる「太陽を盗んだ男」(79年・東宝)の沢田研二も、憎めない悪役の一人だ。

「結局、原爆を持て余す様が、おちゃめでユーモラス。最後の菅原文太演じる刑事との駆け引きも、妙に笑いを誘うのです」

 山崎努の出世作「天国と地獄」(63年・東宝)もまた、庶民と権力との対比が顕著に見られる作品だ。

「貧しい身の上から、丘の上に立つ富豪の家に劣情を抱き誘拐犯となった山崎が、逮捕勾留後、面会室で独白するシーンが印象的。犯罪者然とした鋭いナイフのような目つきが忘れられません」

 一方、権力者間で生まれる悪人はどうだろう。大学病院内の権力闘争を描く「白い巨塔」(66年・大映)の田宮二郎は、「いちばん質の悪い悪役」だという。

「外見から“悪でござい”という悪人と違い、権力の中で守られた彼はいちばん悪質で、悪の魅力がぷんぷんしている。田宮はその後、さまざまな事業に手を出して失敗し、自殺という最期を迎えてしまいましたが、役柄と似たような権力欲があったのかもしれないですね」

 さて、これまで強烈な悪人をあげたが、忘れてはならないのが、悪人にとっての“女の存在”だ。「血と骨」(04年・松竹=ザナドゥ)でビートたけしが、その意義を教えてくれている。

「怪物的な存在感で家族を支配していくたけしが、妻役の鈴木京香を力づくで犯すシーンは目が離せません。京香の露出度が少ないにもかかわらず、たけしのオスの匂いで画面上に強烈なエロスが漂っています」

 実在の連続殺人犯をモデルにした映画「復讐するは我にあり」(79年・松竹)の緒形拳もまた、女との攻防戦が際立つ。

「清川虹子と小川眞由美演じる母子を籠絡し、潜伏するシーンの緊迫感はすごい。小川を手練手管で落とし、反発する清川にドスを利かせて支配する、オスの魅力で屈服させていく様は圧倒的。ついには邪魔になった清川を殺害しますが、悪に染まりきり、もう引き返せないという覚悟が出た顔は、凡人にはできない表情です」

 それだけではない。さらに焼き付いて離れないワンシーンがあるという。

「人を殺したあとに手についた返り血を、自分の立ちションベンで洗い流すという場面。このインパクトは今でも頭から離れません」

 アウトローからテロリスト、殺人鬼まで─“悪人”とは、いかなる存在なのだろうか。

「映画というフィルターを通して観る悪人は、ヒーローよりも魅力的に映ることが多いですよね。どこかに悪人志願がありつつも、社会の規範の中で生きなければならない私たちにとっては、やはり憧れの存在なのではないでしょうか」

カテゴリー:
タグ:
関連記事
SPECIAL
  • アサ芸チョイス

  • アサ芸チョイス
    社会
    2025年03月23日 05:55

    胃の調子が悪い─。食べすぎや飲みすぎ、ストレス、ウイルス感染など様々な原因が考えられるが、季節も大きく関係している。春は、朝から昼、昼から夜と1日の中の寒暖差が大きく変動するため胃腸の働きをコントロールしている自律神経のバランスが乱れやすく...

    記事全文を読む→
    社会
    2025年05月18日 05:55

    気候の変化が激しいこの時期は、「めまい」を発症しやすくなる。寒暖差だけでなく新年度で環境が変わったことにより、ストレスが増して、自律神経のバランスが乱れ、血管が収縮し、脳の血流が悪くなり、めまいを生じてしまうのだ。めまいは「目の前の景色がぐ...

    記事全文を読む→
    社会
    2025年05月25日 05:55

    急激な気温上昇で体がだるい、何となく気持ちが落ち込む─。もしかしたら「夏ウツ」かもしれない。ウツは季節を問わず1年を通して発症する。冬や春に発症する場合、過眠や過食を伴うことが多いが、夏ウツは不眠や食欲減退が現れることが特徴だ。加えて、不安...

    記事全文を読む→
    注目キーワード
    最新号 / アサヒ芸能関連リンク
    アサヒ芸能カバー画像
    週刊アサヒ芸能
    2025/7/8発売
    ■530円(税込)
    アーカイブ
    アサ芸プラス twitterへリンク