政治
Posted on 2020年03月05日 05:55

歴代総理の胆力「三木武夫」(3)睦子夫人の存在が「駄々っ子な三木」を支えた

2020年03月05日 05:55

「睦子が男として生まれていたら、間違いなく三木より先に総理大臣になっていただろう」という声は、後年、三木武夫を知る政財界の中で定着していた。

「昭和電工」を創業、「森コンツェルン」の総帥にして経済界の一翼を担った森矗昶(のぶてる)の二女で三木の妻だった睦子は、それほどの「女丈夫」として聞こえていた。

 筆者は若い頃、何度か東京・渋谷の三木邸に取材に赴いていたが、睦子夫人とも話をする機会もあった。言葉尻はおだやかだが、その底に信念の強さをいやというほど窺わせていたのは、毎度だった記憶がある。

 一方で、三木は徳島県の中農の息子で、自ら「子供の頃は甘やかされて育った」と口にしたように、青春時代もノビノビと過ごし、正義感、反骨精神は強かったが、言うなら「駄々っ子」でもあった。

 明治大学卒業後も就職することなく、親からもらった当時の5000円(現在の500万円程に相当)で悠々と欧米を遊学、国際連盟の軍縮会議を傍聴して感激、ここで「男の仕事は政治である」と心に誓ったものであった。帰国すると、じつに30歳で学生服のまま衆院選に立候補するといった“異色”、無所属で初当選したものだった。

 以後の人生一切政治以外の仕事に就いたことはなく、まさに後年の三木への言葉となった「議会の子」そのものだったのである。ためか、世間知らずの「駄々っ子」ぶりは、私生活でも多分に窺うことができた。関係者の語るそうしたエピソードは、次の如くである。

「三木の好物は殻付きの落花生とミカンだった。食べ始めると、落花生は殻といわず皮といわず落としまくる。片づけるということを知らないのだった。ために、ズボンの膝あたりはいつもゴミだらけになっていた。

 ミカンも同様で、放っておけば一度に10個、小粒のものなら20個くらいはペロリとやってしまう。むいた皮はほったらかし、加えて口に入れたものは片っ端からペーッとやるから、テーブルの上はいつも戦場の如し」

「チョッキのボタンは段違いにかけることがしばしばだった。『パパが一番上のを間違えたからよ』と夫人に指摘されると、三木は『一つしか間違わなかったのに、なぜ全部違ってしまったのか』と嘆いた」

「三木の“電話魔”ぶりは知られていたが、覚えている番号は自分の家のほか、一つか二つだけだった。電話は、自分でかけるものではないと思っている。三木が電話をかける段になると、決まって夫人が大判のノートを持って来、夫人自らがダイヤルを回すのが常だった。この間、三木は腕組みなどをしながら、当然といった顔をしていた。

 色紙などの揮毫の時も同様で墨は決して自分でするものではないと思い込んで、常に待つだけであった」

「どう接したら子供が喜ぶのかといったことにも、まったく不器用そのものだった。ひとり娘の紀世子(きよこ)(のち参院議員)が20歳のとき、『相撲を取ろうか』とやって逃げられたことがある」

■三木武夫の略歴

明治40(1907)年3月17日、徳島県生まれ。アメリカ留学を経て、明治大学法科卒業。昭和12(1937)年4月、衆議院議員初当選。昭和49(1974)年12月、田中退陣を受け「椎名裁定」で自民党総裁、三木内閣組織。総理就任時67歳。昭和63(1988)年11月14日、81歳で死去。

総理大臣歴:第66代 1974年12月9日~1976年12月24日

小林吉弥(こばやし・きちや)政治評論家。昭和16年(1941)8月26日、東京都生まれ。永田町取材歴50年を通じて抜群の確度を誇る政局分析や選挙分析には定評がある。田中角栄人物研究の第一人者で、著書多数。

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