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記事全文を読む→掛布雅之「バックスクリーン直撃談」特別編(2)プロの投手として敬遠は屈辱
あくまでも野球はチームの争いです。その中でチームを背負った選手同士の勝負が光ってくる。江川とバースの戦いはまさにその象徴なのです。
僕も阪神のメンバーとしてベンチで2人の戦いを見ていましたが、自分の成績をどうにか3割に持っていきたいという思いがある中での出来事だったので、2人の勝負をじっくり見ている余裕がありませんでした。チーム全体も、次に控えた西武との日本シリーズに集中しようとする雰囲気がありました。ただ、江川とバースの戦いはデータに裏打ちされた、れっきとしたチームの戦略だということをはっきりと感じていたのは覚えています。
本来、あの試合はそういった過去の対戦成績を踏まえて見なければいけないはず。それがバースの54本という記録ばかりがピックアップされてしまい、結果として巨人は敬遠で逃げたと騒がれてしまったのです。
では、どうして2戦目に先発した斎藤雅樹がバースを四球攻めにしたのか。これは55本だけではなく、タイトル争いをする選手には付き物の現象なのです。
そもそも、タイトル争いをしている打者には相手も厳しいところにボールを投げてきます。僕が本塁打王を取った84年は四球数が102個。中日戦では10打席連続四球という苦汁をなめたこともあります。王さんだって1試合に4打席四球なんてざらにありました。そういう悔しい思いの中で55本の記録を打ち立てたのが王さんの凄みなのです。
けれど、何よりもツラいのは投手です。チームの勝利のためとはいえ、際どい個所にボールを投げて、最終的に四球になれば観客からのブーイング。この苦痛は何にも代えがたいものですよ。斎藤も個人で考えれば、ど真ん中での真っ向勝負をしたいと思っていたのかもしれません。しかし、勝負すれば打たれてしまうかもしれないし、ベンチもそれをよしとしない。自分の実力不足もあるわけですから、プロの選手としてこんな屈辱はないですよ。
それもこれも、チームを勝たせようと思うが故。相手バッテリーも打たれまいとボール球ギリギリを攻めようとして四球が出てしまうのは、警戒している証しです。これはもう避けられないこと。それを王さんの記録に結び付けてしまうのは、はっきり言っておかしいと思います。選手個人の記録とチームの勝利。野球に関わる全員が、この2つをしっかりと区別しなければ、本当の意味での真剣勝負は成り立たないのです。
各チームも戦略上、バレンティンと勝負をしなければいけない場面は必ず出てくるはず。その時に、用心するバッテリーからいかに本塁打を打てるかが、記録更新の最も重要なポイントになるのです。
仮にこれから、バレンティンに対して各投手が四球ばかりを投げたとしたら、きっと日本球界はダメになってしまう。記録を守ることなんて、決して王さんだって望んではいないはずです。これが野球界の共通認識としてあるわけですから、投手がバレンティンとの勝負から逃げるというのはまずありえない話です。
ただ一点だけ言えば、僕自身は、日本人にこの記録を抜いてほしかったという気持ちはあります。しかし、日本人でこれほどの本塁打を打てる打者が現在、日本球界にいるのかという話になってしまいます。その本数までいけるのは西武の中村剛也ぐらいでしょう。
それももう過ぎつつある寂しさです。ここまで打ってくれれば、外国人選手でも55本を抜いてほしいというのが今の心境。一野球ファンとすれば、56本と言わず、60本という大台のアーチを打ち上げる場面をぜひとも見てみたいですね。
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