芸能

熱海の海に消えた「若人あきら大捜査」の「記憶喪失」禅問答/壮絶「芸能スキャンダル会見」秘史

 昭和・平成の芸能界には、世間をあっと言わせた怪事件や珍事件が数々あった。その代表格と言えるのが、当時、郷ひろみのモノマネなどで一世を風靡していた、若人あきら(現・我修院達也)の行方不明事件だろう。

 91年3月3日。家族や知人6人と熱海に遊びに行った若人は、和田浜南堤防で1人釣りを楽しんでいた。夕方5時過ぎ、妻が迎えに行くと姿はなく、消波ブロックに残されていたのは、釣り竿とクーラー、帽子だけ。妻から通報を受けた熱海署は、海上保安庁に出動を要請する。そして、警察、ヘリコプター、巡視艇、救難ダイバー、さらに地元の漁業関係者も参加する大捜査が始まったのである。

 そんな懸命の捜索が続くも、若人発見には至らず、熱海署が「外洋に流されてしまった可能性」を示唆したことで、誰もが最悪の結果を想像する事態になった。

 ところが3日後の6日午後、現場から30キロ離れた小田原城内で、全身ズブ濡れで顔に傷を負い、うつぶせで倒れている若人が発見されたのだ。

 病院に搬送され、頭部打撲の意識喪失と診断された若人は警察の事情聴取に対し、「釣りをしていて海中に落ちた」「小田原まで目隠しをされたまま車で運ばれた」などと供述。警察も裏取りに奔走したが、結局、証拠は見つからずじまい。事件性が乏しいことから、捜査には一応の終止符が打たれた。

 だがこんなネタを、芸能マスコミが放っておくはずはない。一時的な記憶喪失とはいえ、あまりにも釈然としない説明は不可解だとして、借金による失踪や不貞相手との密会、狂言などの説が飛び交い、連日ワイドショーを賑わせたものだ。

 そんな若人がテレビ朝日で復帰会見を開いたのは、事件から4カ月後の7月15日である。紫色のスーツに身を包んだ若人は、

「以前のことは全て忘れているので、自分がモノマネタレントであることも忘れていました」

 報道陣から「歌のほかに、何がわからないのか」と聞かれると、

「何がわからないのか、それがわからない」

 依然として記憶が戻っていないと強調したのである。ただ、話が狂言説や借金、不貞説に及ぶと、なぜかその部分だけは明確に否定。結局、会見は禅問答となり、最後まで本人の口から空白の3日間が語られることはなく、事件の真相は薮の中へと消えていった。

 そんな行方不明事件が再びクローズアップされたのは、12年後の03年9月のことだ。「週刊新潮」が、北朝鮮による拉致の可能性に言及。「『バラしたらお前も家族も命はないぞ』と口止めされ、熱海で偽装工作された上で、解放された」と報じたのである。若人本人は「そんなこと、あるわけないじゃないですか」と一笑に付したものの、仮にそれが事実だとしたら北朝鮮は、どんな理由で若人を拉致し、どうするつもりだったのか。非常に気になるところだ。

(山川敦司)

1962年生まれ。テレビ制作会社を経て「女性自身」記者に。その後「週刊女性」「女性セブン」記者を経てフリーランスに。芸能、事件、皇室等、これまで8000以上の記者会見を取材した。「東方神起の涙」「ユノの流儀」(共にイースト・プレス)「幸せのきずな」(リーブル出版)ほか、著書多数。

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