芸能

立川志らく「『帰っていい』は『いてもいい』」/テリー伊藤対談(1)

 大学在学中に立川談志に弟子入り。周囲にえこひいきと言われるほど可愛がられた立川志らくが新刊「師匠」を上梓した。「談志という落語家が大嫌いだった」青年は談志の元で何を学び、どう成長していったのか? あまりにも理不尽な師匠の教えに天才テリーの堪忍袋も切れる寸前!?

テリー 新刊の「師匠」、最高ですね! 僕は(立川)談志師匠のこと、全然詳しくないんですけど、「風邪をひいても休むな」とか、やっぱり気難しい人ですよね。

志らく 師匠に「風邪をひいて熱があるから、今日は(師匠の家に)掃除に行くのを休みます」って言ったら、「来なくていいよ」と。「だけどな。じゃあ、お前が紅白歌合戦の司会を任された、あるいはアカデミー賞のオスカーの授賞式に出る。風邪ひいたって休むか? 何があったって行くだろう。つまり、お前そういうことなんだ」と。

テリー 風邪ぐらいで休んじゃダメなんだ。

志らく そうですね。でも、行ったんですよ。そしたら師匠が、自分のマネージャーに「あの野郎、風邪ひいてるのに来やがった」って、怒ってるんですね。

テリー もう、どうすればいいかわからないよね。

志らく だから、あとでそのマネージャーに言われたのは、「最初に電話で『行けません』って言うんじゃなくて、マスクして行って、『実は師匠、風邪ひいちゃって』って言うんだ」と。「そしたら、その顔を見て、『あ、そうか。じゃあ今日は帰っていいよ』って言ってくれるから」って。

テリー なるほど、電話で横着するなと。

志らく これも本に書きましたけど、掃除が終わって、他にやることもなくなってボンヤリしてたら、「掃除終わったのか」って言うから、「終わりました」って言うと「それじゃ、帰っていいよ」と。そう言われたら帰るじゃないですか。ところが、後になって電話がかかってきて、「てめえこの野郎、帰ってもいいっていうことは、いてもいいっていうことなんだ。お前は俺と一緒にいたくねえから逃げたんだろう」って怒鳴るんですよ。

テリー すごい屁理屈ですよね。

志らく 師匠としては「帰ってもいい」ということはチャンスだろうと。せっかく時間ができたんだから、例えば「この間こんな映画を見たんですけど、この監督の他のお勧めの作品はありませんか」って質問するとか、そういうのを待ってるわけです。

テリー なのに帰っちゃうと、「俺といることを拒否したな、この野郎」ってなるんだ。難しいな(笑)。

志らく だから、それ以降は「消えろ」って言われるまで帰らなかったです。女性なんかと一緒にいたりすると、いてほしくない時があるんですよ。

テリー 談志さんってのは、基本は怒鳴るんですか。

志らく 談志の場合は感情で怒って、そこに理屈が入るんですよ。理詰めの場合はわかるわけですね。

テリー ああ。「これこれこういう理由で怒られたんだな」って。

志らく はい。でも、談志は同時なんです。理詰めで怒鳴りつける。

テリー イヤですね、それ。

志らく ものすごくイヤです。だから弟子はみんなやめちゃうんですよ。

ゲスト:立川志らく(たてかわ・しらく)1963年、東京都生まれ。大学4年時に立川談志に入門。二つ目時代から兄弟子の「談春」と「立川ボーイズ」として活動し、深夜番組に出演するなど注目を集める。1995年、真打昇進。映画と古典落語を合体させた「シネマ落語」の創作、映画・演劇の作・演出・監督を務めるなど多方面で活躍。2016年10月より「ひるおび」(TBS系)にコメンテーターとして出演し、2017年上半期のブレイクタレント部門1位に。最新著書「師匠」(集英社)発売中。

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