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Posted on 2024年12月01日 05:56

プロ野球「オンオフ秘録遺産」90年〈巨人との「盟主決定戦」を制し西武に黄金時代到来〉

2024年12月01日 05:56

 西武の二塁手・辻発彦が一塁の守備についていた清原和博の〝異変〟に気付いた。

 泣いていた。あの清原が泣いていた。テレビ画面に大きく映った。

 辻が「泣いてちゃ、ゴロが捕れないぞ」尻を叩いた。泣くのはまだ早いぞと─。

 1987年11月1日、西武球場で行われた、西武対巨人の日本シリーズ第6戦。西武が3勝2敗と日本一に王手をかけて、3対1とリードして最終回を迎えていた。

 2死無走者。清原の目から涙があふれ出ていた。シリーズ史に残るハプニングだ。巨人最後の打者、篠塚利夫(現・和典)が中飛に倒れた。西武、2年連続日本一だ。

巨 0 0 0 0 0 0 1 0 0=1

西 0 1 1 0 0 0 0 1 ×=3

 監督の森祇晶が「巨人には勝てると思わなかった。今でも強いと思っている」と余裕で言えば、巨人の指揮官・王貞治は「勝負は時の運だ。みんな胸を張ってくれ」とナインに呼びかけた。

 清原は85年のドラフトを思い出していた。

「なぜ、オレではなく桑田なんだ」

 この年、ドラフトの話題を独占していたのはPL学園の「KKコンビ」こと清原と桑田真澄だった。

 2人とも巨人ファンだったが、桑田は早くから早大への進学を明言していた。清原は巨人入りを夢見ていた。監督は少年時代から憧れ、目標だった王である。

 だが、清原は指名されなかった。なんと桑田が指名された。清原は巨人から事前に1位指名を確約されていたという。巨人と王に裏切られた‥‥。

 桑田は早大を蹴って巨人に入り、清原は抽選で選択権を獲得した西武に入団した。桑田には密約説が定着した。

 清原はその時の悔しさを思い出し、巨人をあと一歩まで追い込んだ場面で、胸にグッと迫るものがあったのだ。

 森は86年、前任・広岡達朗の後を受けて監督に就任した。その年、リーグを初制覇して広島との日本シリーズに臨んだ。

 広島に初戦引き分け後、3連敗したが4連勝した。50年から始まったシリーズで計8試合は史上初だった。

 87年、森は2年連続のリーグ制覇。王は球団として4年ぶりにリーグの頂点に立った。

 球界の「盟主」を自任する巨人、「新盟主」に名乗りを上げた西武の一騎打ちだ。

 だが、結果は西武が野球の違いをまざまざと見せつけたのである。

 森は言った。

「今日(第6戦)の得点は本当にウチらしかった。相手のことをよく知っていた」

 2回1死二塁、中堅への大飛球を好捕したウォーレン・クロマティの油断を突いて、二塁走者の清原が先制の本塁を踏んだ。 そして1点差に詰め寄られた8回2死一塁、秋山幸二が鹿取義隆から中前打を放った。

 この打球をクロマティが緩慢に処理し、山なりに返すのを見た、一塁走者の辻が一気に本塁を陥れたのだった。

 巨人は「大丈夫だ」と勝手に判断し、きっちり中継をしなかった。西武は「公式戦を見ていてもクロウのところに打球が行けば─」とスキをうかがっていた。

 その野球に取り組む姿勢の差が勝負所で決め手となった。王がこう話した。

「一番の差は守備だった。力の差で負けたとはとらえていないし、打ちのめされた感じもない‥‥」

10月25日・第1戦(西武)

巨 0 0 4 0 0 2 0 1 0=7

西 2 0 1 0 0 0 0 0 0=3

 先発は巨人・桑田、西武・東尾修。3割打者5人を抱える巨人打線が爆発した。桑田は3回途中でKOとなったが、中畑清、駒田徳広が一発を放つなど毎回の16安打で白星発進となった。

10月26日・第2戦(西武)

巨 0 0 0 0 0 0 0 0 0=0

西 0 0 1 0 0 2 3 0 ×=6

 先勝で気を良くした巨人に立ちふさがったのが、左腕・工藤公康だった。前年、4試合に登板して1勝1敗2セーブでMVPに輝いた「新シリーズ男」だ。清原が7回、ダメ押しの3ランを放った。

 工藤は巨人を3安打に封じて完封勝利の快投。二塁を踏ませなかった。

10月28日・第3戦(後楽園)

西 0 0 0 1 0 1 0 0 0=2

巨 0 0 0 0 0 0 1 0 0=1

 西武・郭泰源が巨人・江川卓に投げ勝って連勝した。巨人は8安打で1点のみ。

10月29日・第4戦(後楽園)

西 0 0 0 0 0 0 0 0 0=0

巨 2 0 0 0 0 2 0 0 ×=4

 巨人の先発・槙原寛己が真っすぐにフォーク、スライダーを交えた完璧な投球で完封勝利を挙げた。

10月30日・第5戦(後楽園)

西 3 0 0 0 0 0 0 0 0=3

巨 0 0 0 1 0 0 0 0 0=1

 37年からピタリ半世紀、数々の名勝負の舞台となった後楽園のラストゲーム。翌年は東京ドームに生まれ変わる。

 桑田が栄光の先発投手に指名されたが、1回40球のKO。西武は手堅い継投で、日本一に王手をかけたのだった。

 西武が「盟主決定戦」を制し、黄金時代が到来した。MVPは2勝1セーブの工藤が、史上3人目の2年連続獲得となった。

 森は厳しい基本指導の徹底とともに、選手の自由を認める柔軟性があった。結果、86年から94年の在任9年間で8度のリーグ優勝、6度の日本一を達成した。

 王は「来年、もう一度資格を得てぶつかりたい」と話したが、翌88年はリーグ2位で終わり退任した。

 巨人が森西武に雪辱したのは94年。長嶋茂雄が4勝2敗で巨人創設60周年を有終の美で飾った。

 清原がフリーエージェントで巨人に入団したのは96年11月24日。長嶋が笑顔の清原にユニホームを着せた。日本シリーズ第6戦、あの涙から9年が経っていた。

(敬称略)

猪狩雷太(いかり・らいた)スポーツライター。スポーツ紙のプロ野球担当記者、デスクなどを通して約40年、取材と執筆に携わる。野球界の裏側を描いた著書あり。

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