クリスマスムード漂うオシャレなバーや高級レストランが並ぶ、渋谷区恵比寿。そこだけ時代に取り残されたような築40年以上の戸建てが集まる古い住宅街の一角、オフィスと賃貸住宅が混在する雑居ビルで12月6日、中山美穂さんが亡くなっているのが見つかった。所属事務所は12月8日、同日に行われた警察の解剖結果を受けて「事件性はなく、入浴中に起きた不慮の事故」と発表した。警視庁も事件性を否定。溺死とみられる。
中山さん急死の報に「ヒートショック死」の推測がひとり歩きしたのも無理はない。中山さんの自宅には午前中こそ冬の低い日差しが届くものの、昼過ぎには周囲のタワーマンションや商業ビルの日陰になる。雑居ビル1階から4階には芸能プロダクションなどが入っており、オフィスフロアが無人となる夜中は、ビル全体が師走の冷気に包まれたことだろう。特に12月6日未明は今季初めて都下で薄い氷が張るほど、冷え込みが厳しかった。
2008年12月、やはりクリスマスムードの渋谷区内のオフィスビル上階にひとりで暮らしていた飯島愛さんが亡くなっていたのと、重なるものがある。
中山さんの所属事務所が発表した「入浴中の不慮の事故」や溺死で亡くなる人は、厚労省の人口動態統計によれば、年間約8000人以上。そのうち約6000人が自宅等の浴室で亡くなっている。
とりわけ冬場に多い「ヒートショック死」には2種類ある。血管がボロボロかつ高血圧の高齢者が、浴室と脱衣所の気温差で脳や心臓の血管が破れるか詰まるか発作を起こすケース。
あるいは貧血や低血圧がある女性、起床時に血圧が低くて起き上がれない人、生理中の女性、酒や睡眠薬などを飲んだ人が温かいお湯に浸かって血管が急激に拡張、血圧が下がり失神することがある。意識を失い、そのまま運悪く浴槽に沈めば、溺死する。
飲酒後にお風呂に入ると眠くなるが、あれは酔いや眠気ではなく、脳に血流がいかなくなった、虚血性の「失神」だ。中山さんも警察による解剖の結果、前者の病死は否定された。
亡くなる前、中山さんのインスタグラムには気になる書き込みがあったが、亡くなった当日、睡眠薬を飲んでいたのか、深酒をしていたのか…。事故死に至った過程と解剖結果を詳細に語ったところで、いたずらに遺族とファンを傷つけるだけだろう。
(那須優子/医療ジャーナリスト)